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「ああ、いずみんじゃん」 「あれっ、桐崎君珍しい」 放課後の学生食堂。安土曰佐彦(あづち・おさひこ)は珍しく、友人の桐崎敏(きりさき・さとる)とそこへ訪れていた。
食堂の戸をくぐるなり、敏が目があった女子生徒と交わした会話がこれである。
内容から判断するに、どうやらクラスメートのようだ。
曰佐彦の嗜好からみると、なかなか可愛らしい女の子である。
「敏、それ誰?」
「あぁ、この子いずみん。クラスメート。いずみん、こっち一組の俺のダチ。安土曰佐彦」 さりげなく聞いてみたはいいものの、敏はニックネームでしか彼女を紹介してくれない。
曰佐彦のことはきちんとフルネームで紹介したクセに、これはいったいどういうことか。
「ちょこちょこ話に出てくる安土君、だね」
「そうそう」 曰佐彦の思考もお構いなしに、敏と『いずみん』はニコニコのほほんと会話を交わす。
敏がニックネームで彼女を呼んでいるということは、普段から割と話す間柄ということだろうか。
「初めまして、スキです」
「初めまして、安土です……ってえぇっ!?」 ごくごく普通に自己紹介したつもりが、曰佐彦はなんだかとんでもない台詞を聞いた気がした。
彼の耳が確かなら、今曰佐彦は『いずみん』から初対面で告白をされた。
思わず固まってどぎまぎする曰佐彦と、ニコニコ笑顔を崩さないいずみん。
「いずみんいずみん言われてるけど、下の名前は出澄(いずみ)。苗字のほうは寿の木で寿木(すき)なの」 「……あー、苗字がスキね、寿木。あははなるほど納得!」 いずみん ── 出澄の補足に、やっと硬直が解ける曰佐彦。
"そうか、寿木っていう苗字だったのか"と不審者顔負けの不審さでぶつぶつと繰り返す。
そんな彼の様子を観察して、敏がニヤニヤと笑い出す。 「なんだぁ、告白されたとでも思ったんだ?」
「うーん、確かに紛らわしい苗字だもんね……」 「あはははは……」 もはや笑ってごまかすしかできない曰佐彦。
出澄の台詞を聞く限り、どうやら自己紹介で勘違いされるのはよくある話、らしい。それが唯一の救いだろうか。
「あっはは、ありえねぇ! ありえないぜ曰佐彦!」
「爆笑するなよ敏!」 当然のごとく、曰佐彦の勘違いは敏に爆笑されてしまった。
―― 仕方ないだろ、可愛い女の子に開口一番にスキって言われりゃ勘違いもするわ!!
内心での叫びは、しかして言葉にすることもできなかった。
(〆)
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