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富士見工業高校の屋上は、正式に開放されてはいない。 数年前、屋上で喫煙していた生徒が見つかってから閉鎖されている。
しかし秋の日の放課後、ひとりの女子生徒が当たり前のようにそこにいた。
高い空を厚く隠す雲の壁、どことなく冷たい風、運ばれてくる色づいた落ち葉。
所属している吹奏楽部の練習している音が、風に乗ってどこまでも届く。
ただ空を眺めるだけなら、皆が『くつろぎテラス』『屋外練習場』と呼んでいる、昇降口の屋根の上でも事足りる。
だが彼女は、校内のどこよりも空に近い屋上の方が好きだった。
制服のポケットに収めてある携帯電話には、空の写真が幾枚も記録されている。
空を愛することに関してなら、彼女は学校一であろう。
ふっと彼女は、空を見上げる。フェンスに遮られない視界いっぱいに雲が広がる。 「……あ。天使の梯子」
そこにあったのは、雲の隙間から差し込む光。
思わず、制服から携帯を取り出して構えた。そして、シャッターの落ちる音。 彼女の携帯のカメラ機能では、光を捉えきることはできない。 それは十分にわかりきっていたが、それでも構わずに写真に収めた。
天使の梯子は、なかなかお目にかかれるものではない。
デジタル画像データと化した天使の梯子は、やはり圧倒的に劣化していた。
しかし、そんな写真も彼女の記憶という記録を呼び覚ますには十分だ。
密かに翼と空に憧れ続ける女子生徒。比較的部活には真面目に取り組む彼女も、ときたまこうしてサボりたくなる。 それはただ、空を眺めるだけに。 彼女がそうしているのと同時刻。
いつものように部長にそれがばれ、同学年のまとめ役が代わりにお小言を喰らっていた。
(〆)
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