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粒の行方

 よく味噌汁を作るので、お気に入りの味噌を欠かさないようにしています。購入し立てよりも少し寝かせた方が味が良くなるので、いつも多めに購入してしばらく寝かせた物を使うようにしていたのですが、一時期、購入していたデパートの売り場から姿を消し、入手が困難になってしまった事があります。

 店員さんに事情を聞いてみると蔵元が倒産したとの事で、それから長い時間、多くの銘柄を試しながら満足のいく物を探す事となってしまったのですが、その際、味噌やしょうゆは日本の食の基本であり、家庭の味を形作るものであるという事を実感しました。

 今日でこそ味噌は調味料の一環となっていますが、かつては日本の食生活における主要なタンパク源となっていて、江戸時代の中期以前は直接食べるおかず的な存在という色合いの方が濃い物となっていました。

 大豆に麹と塩を加えて発酵させる事で作られる味噌は、大豆由来のタンパク質が分解されて消化吸収されやすい状態になっており、旨味の素となる遊離アミノ酸も多く含む物となっています。タンパク質を多く含む大豆を多くすると旨味が増し、デンプンが多い麹を多くすると甘味が増すとされ、それぞれの比率や麹の原料を米や麦、豆などにする事によって独自の味が作り出されます。

 味噌の原形は穀物に塩を加えて保存する「醤(ひしお)」であり、醤作りは製塩を行うようになった縄文時代から行われています。弥生時代にも醤作りは行われていて、大豆に塩を加えて作られた醤から味噌という独自の存在が分化した事が確認できるのは奈良時代の事となっています。当時の文献にまだ完全に発酵が進んでおらずに豆の粒が残されていて、完全な醤となっていない物という意味から「未醤(みさう、みしょう)」と記されているのが、最初に登場する味噌という事ができます。

 未醤は「末醤」と記される事もあり、「大宝律令」の中には末醤として登場しています。その後、味が良い事から「味醤」や「美蘇」の記述も見られるようになり、「味曽」を経て今日のような「味噌」と呼ばれるようになっています。

 完全に発酵させずに大豆の粒を残した味噌は、ペースト状の醤とは違って調味料としてよりもそのまま食べる物として扱われ、「畑の肉」ともいわれるほど栄養豊富な大豆の保存性を高め、味や消化吸収に優れた物として全国に広まっていきます。

 そんな味噌作りがより盛んに行われ、各地で独自の発展を遂げる事となるのが室町時代から戦国時代にかけての事で、戦乱が多くなってくると兵糧として重宝され、優れたタンパク源でもあった事から兵士の貴重な栄養源とされた事が日本の食文化と味噌との関わりを深めたと考える事ができます。また、良質な味噌を生産する事は単に兵糧の確保というだけでなく、経済政策としても有効であり、そのために戦国武将によって考案されたという味噌は各地に多く残されています。

 現地で入手した野菜などを具材として使い、大鍋でまとめて作る事ができる味噌汁は、大変便利な陣中食であった事から各地の戦場で盛んに作られ、徴用されていた領民がその作り方を学んで自宅に戻ってからも日常の食として食べるようになって定着した事が、味噌を直接食べる物から調味料へと変えていく事に繋がり、味噌自体の姿も変へていく事となります。

 当初は大豆の粒が残されたままというのが味噌の姿で、それをすり鉢で潰して使われていましたが、最初に大豆を潰しておいてペースト状に仕上げる味噌が作られるようになって一般化し、語源の「未醤」にあるような未発酵の粒を持つという姿は見られなくなっています。

 そうして江戸時代の中期頃には調味料としての味噌が定着し、各地の気候や風土に合った味噌作りが行われていきます。明治時代の末期になると麹の働きを温度管理で調整する製法が考案され、それまで1〜3年ほどかけて作られていた味噌は数ヶ月で作る事ができる物となり、さらに第二次世界大戦中には温度管理の適正化が進められ、20日ほどの醸造期間で作り出す事が可能となって工業化への足掛かりを得る事となります。

 第二次世界大戦後、ライフスタイルの変化や安価に大量生産された物が流通するようになった事で、かつてのように各家庭で手作りされるという事は見られなくなってしまいましたが、日本の食に深く根差した物であり、我家の味を作る大切な存在である事に変わりはない物、それが味噌だと思えてきます。

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