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色白の英雄がいたっていいじゃない
さてさて。
遅ればせながらスペイン対アイスランドレビュー。結果はご存知の通り80分のイニエスタのゴールでかろうじて1点を奪ったスペインの辛勝。この数字だけ見れば「なんだよ、勝ったとはいえアイスランドにギリギリじゃあやっぱりアラゴネススペインはダメだな」ってなことになりかねない。しかしなかなかどうして内容はあっぱれあっぱれ。終始スペインはらしさを発揮し、自分達の攻撃が出来ていた。アイスランドが最初から引き分け狙いのドン引き体制で臨んだということを差し引いても、今回のボールの流れは素晴らしかった。点が入らなかったのはひとえに「不運」。良いシュートを何本も放つもののボールはことごとくポストに弾かれるか、アイスランドのキーパーの超反応によって止められてしまった。審判が2本の明らかなPKを取らなかったのもついてなかったことの一つ。内容から判断すれば4、5点入っていてもおかしくなかった。
スペインが良いフットボールが出来た原因の一つ。それは今日のフォーメーションにある。メンツはこちら。
モリエンテス ビジャ
シャビ イニエスタ
シルバ
アルベルダ
ラモス
カプテビジャ
マルチェナ プジョル
カシージャス
代わっている選手といえば出場停止があけたプジョルとラモスが入ってるところだけ。それ以外は基本的に前回の並びと変わっていないように見える。しかし実際はイニエスタと右サイドバックとラモスの役割が変わっていた。前回は比較的右サイドに張るカンジだったイニエスタがこの試合では中盤のフリーマンとしてどこにでも顔を出してボールに触る。空いた右サイドのスペースをラモスの攻撃参加で埋める。イニエスタがうろちょろすることにより中盤が流動的になりパスコースが増え、同時に敵も惑わされ隙も生まれる。目立ちたがりのラモスがサイドバックに入ったことも右サイドの活性化に繋がった。
イニエスタのほかにこの試合で決定的な働きをした選手がいる。ビジャだ。ビジャは本当に良い。スゴク良い。大好きだ、ビジャ。ビジャはハンターだ。ビジャのプレーは豹を連想させる。ビジャの目の中には常にゴールマウスが捉えられている。少しでもスキが出来ると容赦なく襲い掛かる。しかしそういうハンターはフットボール界には少なくない。ビジャを他のハンターと別格にせしめているのは獲物にスキがないなら周りを利用してスキを作らせる狡猾さも持ち合わせている点だ。スキがないからといって無理やり襲い掛かるバカじゃない。そのためには獲物から一番近いエリア内から飛び出し、サイドに流れるプレーも厭わない。スペイン代表の中では一つ飛びぬけているストライカーだ。トーレスもモーリーもちとビジャには適わない。ユナイテッドに欲しいなぁ。マジでもうホント喉から手が出るほど欲しい。トーレスに50億つぎこむよりもこっちの方が絶対より有用。beckhamaster太鼓判のフォワードだ。
イニエスタが中盤でちょこまかと動き回り、シャビと連携してボールを回してシルバとラモスでサイドを崩しながらチャンスを作り、ビジャが果敢にゴールを狙う。非常にテンポ良くアイスランドに攻め立てるスペインだが、ドン引きアイスランドと運のなさに見まわれゴールが遠い。前半終了前そんなスペインにこれまた別の不運が襲い掛かる。空中戦でポストにぶつかり地面に倒れこんだモーリーがそのときの衝撃で肩を強打しなんと脱臼。全治4週間の大怪我に見舞われた。ホント見かけによらずモーリーの華奢なこと華奢なこと。そんなんじゃ頼れないよ。牛乳に相談してみてはどうだろう。
代わりに入ったのはトーレス。これまでずっと不動のストライカーとして起用されていたトーレスだが2月のイングランド戦からは、バレンシアインスパイア戦略に走ったアラゴネスの手によりとうとうモーリーにポジションを奪われた。イングランド戦ではパッとしなかったモリエンテスもデンマーク戦では貴重な先制点を奪う活躍。徐々に存在感が消えていく中で急遽訪れたビッグチャンス。これをトーレスは見事に活かした。審判にはとってもらえなかったけれどもっと目の良い審判ならトーレスのおかげでPKが2つになっていただろう。あれはダイビングでもDFの正当なタックルでもなかった。ビジャほどのゴールへの執着はこのニーニョからは見れないものの、モーリーとは違ってチャンスメイクにも貢献できるところが美点だし、なによりアラゴネスペインにはまる。
今のスペイン代表にはドリブル突破型のいわゆるウイングがいない。だから引いた相手を前にするとどうも攻めにくくなってしまうが、サイドに流れてドリブル突破を図るウイングとしての仕事も出来るフォワードがいるとその欠点を補うことが出来る。この試合でもトーレスは左サイドに流れて果敢にドリブルを仕掛けチャンスを作っていた。これがモーリーには出来ない芸当だったし、後半スペインがピッチをあげれた要因の一つだ。今のスペインではエリアの近くで仕事したがるモーリーよりもトーレスの方が相性が良い。バレンシアをインスパイアすることにこだわるアラゴネスのことだから次では多分またモーリーがスタメンだろうけど、もしもインスパイアを捨てビジャとトーレスの2トップを採用できたならまたアラゴネスに対する評価を上方修正することにしよう。
幾度も攻めるものの点が入らなかった前半。そこで後半からなんとアラゴネスは奇策に出る。左サイドバックのカプテビジャを下げAnguloを投入。といってもそのまま左サイドバックをさせるのではなく、右サイドに配置。つまりバックスが一人減って3−5−2へとシフト。並び的にはこんなカンジだ。
トーレス ビジャ
シルバ イニエスタ Angulo
シャビ
アルベルダ
ラモス
マルチェナ プジョル
なんとイニエスタ待望のメディアプンタ!シャビはイニエスタよりも一歩引いた位置でバランスを取る。アルベルダは完璧な守備的ハーフだ。3バックといえどもラモスはプジョル、マルチェナと同じラインに並ぶのではなく相変わらず高い位置にいる。実質2バック。アイスランドに点を取る意志がないと見切り思い切った攻撃的布陣を敷いてきたアラゴネス。おいおい、どうしちゃったのよ。らしくないじゃん、アラゴネス。いいよいいよ、その調子だ。実際このシステムは上手く働きデンマーク戦とは対照的に後半も怒涛の攻撃を見せるスペイン。
ただこれでも点が入らなかった。何度も言うようにアイスランドは絵に描いたように試合を捨て、ただ勝ち点1だけを求める戦いに終始している。「卑怯だの臆病者だのどんな批判も受け入れよう、しかし我らに出来るのこれだけなのだ」と腹に決めた者特有の覚悟による力強さがある。勝利は捨てていたものの、明らかにアイスランドは強敵だった。不運も重なった。アイスランドの覚悟を受け入れた引き分けの女神がスペインからゴールを遠ざけているような、そんな印象さえ受けた。
そんな中でもイニエスタが一味違うプレーを見せる。Anguloとシルバは手堅くサイドからセンタリングを入れようとするが、イニエスタはそんなプレーじゃアイスランドは崩せないと見たか、中央からアイスランドの胴体ごと真っ二つにぶった切ろうと手を変え品を変え攻め立てる。ある時はドリブルでエリア内のDFを動かして、出来たスペースにキラーパス、またある時はぬかるんだピッチを活かしたイレギュラーバウンドのミドルシュート。そんなイニエスタの思惑を察知したシャビのサポートもさすがだった。ここはやっぱり年季が違う。ただそれでも点は入らない。
でもスペインは諦めない。アイスランドも引き分けを覚悟できていたなら、スペインだって覚悟できていた。引き分けは敗北と同義。もう俺達は十分すぎるほど勝ち点を落としてきた。もう負けられねぇ。だからどうしても1点がいる。絶対に1点決めてやる。その覚悟が徐々に代表に充満していく。そしてとうとうやってくれました後半36分。シャビのパスをポストで受けたビジャがエリア付近でボールをキープしキープしDFを引きつける。2つ目のフェイントをかましたところでイニエスタへのパスコースを塞いでいたDFも引っかかった。息を合わせたかのようにパスを出すビジャとスペースに飛び込むイニエスタ。エリア内左でドフリーになる。イニエスタ。巻いてくるか?と思いきやその裏を突いてニアにドカン!とシュート一発。イニエスタの素早い判断&シュートに反応が遅れたキーパー。これまで攻めに攻めてきたスペインにやっとこさやっとこさ、ホントやっとこさゴールが入った。
このゴールを見た時自分は古きよきカルチョ、1−0美学を思い出した。イタリア伝統のカテナチオは守備的でつまらないという批判をよく浴びるが、カテナチオの本質は勝利追求のためのリアリズムにはあらず。自分も守れば敵も守る。そうした膠着状態を破ることの出来る一人の天才、ファンタジスタに英雄を投影するヒロイズムこそがカテナチオの真の姿。1人の天才が奪った1点を10人の兵隊で守りきる1−0美学。自分は今日のイニエスタにその英雄の影をしかと感じ取った。そしてこの英雄こそが長年スペインが欲しているワールドカップを掲げるためには欠かせない存在なのだ。スペインにはペレやマラドーナ、ジダン、リバウドのようにスペインを別次元たらしめる存在がずっとずっといなかった。だからずっとずっとスペインはグッドチームのままであり、ずっとずっとワールドカップを取れなかった。しかしイングランド戦では途中出場し決勝ゴールを奪い1-0の勝利に導き、スタメンで出場したデンマーク戦では超絶キラーパスで先制点を生み出し、この試合では試合終盤どうしてもゴールが欲しい場面で決勝点を奪い、欧州選手権本戦に絶対必要な勝ち点3をもぎ取る活躍をしたアンドレス・イニエスタ。今スペインに新たな英雄伝説が生まれつつある。この萌芽を見逃さず大切に育てることが出来てはじめて、積年の夢も夢ではなくなる。
ちょっと話が逸れましたが。やっぱりイニエスタには夢を託してしまいたくなる魅力があるなぁ。ということで。後はスペインがボールをキープしながら残り時間をつぶして試合終了。いや、ホントにいい試合だった。ボールの流れからこれまでのスペイン代表にない一体感を感じた。引きに引いた相手からゴールをもぎとった姿にこれまでのスペイン代表にない力強さを感じた。ワールドカップ戦のフランス戦(あくまでフランス戦から、フランス戦でラウールトップ下、4−3−1−2なんてバカげた冒険するまではスペインは明らかに強かった)以後、はじめてアラゴネススペインに可能性というものを感じた。このメンツで今後連携を高めいけば、きっと欧州選手権予選突破、そして本戦でも最高の結果を望むことは可能なはずだ。あくまで「このメンツで」続けていければ。アラゴネスの怖いところはそれまで素晴らしいチームだったのに、重要な試合を前に変なことを考えて、そしてろくに試したことないフォーメーションも平気で試してくるわからんちんなところにある。その突然な発作をおさめ、今のレールのままずっと戦い続けることが出来ればいい結果を残せるはずだ。
ホントのホントにイニエスタを欧州選手権で見たいんですよ。個人的に死ぬほど見たいというのもあるし、ワールドカップのためにイニエスタには代表での大きな舞台をもっと経験させたいというのもある。そのためにはホント負けられない。この調子でいけば絶対に大丈夫。だから、だからアラゴネスよ。変な采配だけはしてくれるなよ。
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敵を錯乱させるのも戦略ですね
2015/10/4(日) 午後 10:41 [ 闘争の兆し ]