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陸軍病院の閉鎖的な対応を振り返るロブ・ペレス記者。特集は大きな反響を呼んだという
(読売新聞)
「事故・過誤」と病院の閉鎖性」
ハワイ州で最大の部数を誇る日刊紙ホノルル・アドバタイザーの記者、ロブ・ペレスは、今年2月に3回に分けて執筆した陸軍病院の医療事故の特集記事を手に語り始めた。
酸素と二酸化炭素を間違えて新生児に与え、脳に重い障害を負わせたケースなど2件の事故が相次いで起きていたが、病院の担当者は「子どもに障害が残ったのは事実だが、過失はない」の一点張りだった。
「一連の取材で、軍病院だから閉鎖的なのではないことがわかった」と、ペレスは言う。民間病院で起きた深刻なケースを取材すると、多くが示談で解決され、示談書には「情報を外部に漏らさない」という一文が入っていた。
「ハワイのような狭いコミュニティーで、同業者を批判する医師は一人もいない。鑑定意見を言う医師も、本土から引っ張ってくるんだ。被害者はいつも“置き去り”になっている」
医療事故を検証、処分する州のボード(専門家委員会)も検討結果を開示しないため、両親は提訴する以外、事故の真相を知る方法がなかった。
患者側と医療従事者側の対立の溝は深い。
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年間10万件を超えるとされる医療過誤訴訟を起こす患者に対して、米社会の目はかなり冷ややかだ。
「患者たちは、宝くじを当てる感覚で訴訟を起こす。低所得者層ほど提訴の比率が高いというデータもある。新聞には『必ず勝たせます』と訴訟をあおる弁護士の広告ばかり」(ワシントンの民間政策研究機関アーバン研究所職員)。多くの政府関係者や医療従事者から同じ感想を聞いた。
消費者の声は、一方で、医療の改革・改善の大きな原動力になっている。
消費者運動や権利意識の高まりを受けて、米国病院協会が「患者の権利章典」を制定したのは1973年。同協会のステファン・アネン副代表は、「病院側の意見を政策に反映させるのが主な仕事だが、患者の利益に配慮しなければ非難される。近年広がりを見せている謝罪運動は、こうした流れの中にある」と語る。
市民団体「パブリック・シティズン」では、過去10年間に各州のボードなどで処分を受けた医師の個人名を記した報告書を本やネットで公開している。
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日本でも医療不信の高まりは同じだが、米国とは異なり、基本的には「対話」路線が模索されてきた。
作家の柳田邦男を座長とする検討会が、「日本的なインフォームドコンセント(十分な説明と同意)」の必要性を説いたのは95年。より良い医療環境を築くために双方の協力を求め、患者が権利を主張し、医療従事者が自己防衛に走るという米国の対立的構図を批判した。
先月、東京で開かれた「医療者の良心を守る市民の会」のシンポジウムには、市民や医師、看護師ら約300人が集まった。副題は、「患者と医療者が手をつなぐためにすべきこと」。医療事故を正直に告白した医師や被害者らがそれぞれの思いを訴えた。
双方の利益につなげるにはどうしたらいいのか。医療事故の当事者も動き始めた。
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