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(愛媛新聞 社説)
東京慈恵会医大青戸病院の腹腔(ふくくう)鏡手術ミス事件で、東京地裁は元医師三人に執行猶予付きの有罪判決を言い渡した。
二〇〇二年に前立腺がんの腹腔鏡手術を受けた男性患者が一カ月後に死亡したことをめぐり執刀医と助手の三人が業務上過失致死罪に問われていた。医療過誤が相次ぐなか、この事件の悪質さは際立っていた。
技術も経験もないのに実績を上げたいとの功名心から難易度の高い手術を試みたが、失敗し患者を死亡させたというのだ。まるでモルモットのように患者を扱う医療現場の一端をうかがわせるようであり、衝撃と医療への不信をもたらした。
公判で被告側は「手術方法と死亡との間に因果関係はない」などと無罪を主張していたが、判決は「三人に手術を安全に行う最低限度の能力がなかったことは明らかだ」として「手術は無謀で、過失は大きい」と認定した。
さらに「患者の安全と利益の確保という医師の最も基本的な責務を忘れた行為は強い非難に値する」と断罪した。極めて重い指摘である。
判決が、被告三人の刑事責任と合わせて、病院全体の責任について言及したことも注目したい。それは、診療部長らが監督責任を果たしていたとはいえないこと、組織ぐるみで事件の隠ぺいを図ろうとしたこと、麻酔医が必要な情報を被告らに伝えなかったこと―などだ。
それぞれ重く受け止める必要がある。ただ、こうした要素から情状酌量の結果、実刑が回避された。今回の医療ミスの重大性や悪質さ、それに遺族の気持ちを考え合わせると、執行猶予付きの判決に釈然としないものが残るのは否定できない。
大学の倫理委員会での手術の承認、患者・家族への十分な説明といった当たり前の手続きも欠けていた。その点も含めて「医の暴走」を招いた責任について病院は十分自覚しなければならない。あらためて再発防止と安全管理の徹底に努めてもらいたい。
いうまでもなく全国の病院関係者にとっても「他山の石」とする必要があるだろう。依然として医療過誤が後を絶たない事実があるからだ。
昨年一年間の医療事故は千百十四件にのぼり、うち百四十三件が死亡事故だった。これは日本医療機能評価機構の集計で、全国の主要な二百七十二病院からの報告分だ。
こうした報告制度ができたのは二〇〇四年度からで、大きく立ち遅れていた。しかも報告義務があるのはまだ一部の病院にとどまっている。実際の件数はもっと多いとみられる。別の調査では、一歩間違えれば事故になりかねない「ヒヤリハット」事例が昨年の半年間で九万一千件もあったという。
緒に着いたばかりの医療事故報告制度だが、充実・強化する必要がある。原因を分析し認識を共有することで再発防止に役立つはずだ。あらゆる事故防止策を尽くすことは医療界挙げての課題だ。
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