病院の実力は患者の一番の関心事だ――。顕微鏡を見ながら行う椎間板(ついかんばん)ヘルニアの手術(東京医科歯科大で)
(読売新聞)
?H4> 病院の実力を国も注目、「患者本位」確立へ一歩
患者が病院の“実力”を知る手がかりとして、手術件数など治療実績の情報開示が注目を集めている。厚生労働省は7月、病院や医師個人ごとに、手術件数と治療成績との相関関係を調べる調査研究に着手する。患者の病院選びに役立つ医療情報の充実が期待される。(医療情報部 田村良彦、高橋圭史)
?H4> 医師個人の実績も
手術件数と治療成績の関係などを調べるため、中央社会保険医療協議会(厚労相の諮問機関)小委員会で今月、専門家による分科会の設置が決まった。
分科会は、心臓外科や呼吸器、消化器、整形外科などの手術について、手術件数と患者の重症度、死亡率、手術時間、出血量、入院日数といった成績の指標となるデータを、医療機関だけではなく医師個人単位でも収集する。国内初の本格的調査で、来年夏をめどに結果をまとめ、2008年度の診療報酬改定に反映させる考えだ。
?H4> 海外で「相関」報告
国は2002年度から、心臓外科や肺がんなど高度な技術を要する110種余の手術について、年間手術件数の基準を設け、一定数以上を実施していれば、診療報酬を加算するなどの優遇措置をとってきた。この制度に対し、「手術件数と治療成績の相関を示す十分なデータがない」との反対意見が外科医らの団体から出され、今年度いったん廃止された。
だが海外では、心臓や肺がん手術で、実施件数が多いほど治療成績も良いとする報告がある。国内でも、大腸がん、肝臓がんなどの生存率は、がんの拠点病院では、一般病院など医療機関全体より10ポイント以上高かったとの研究もあり、病院間の格差の存在はある程度認められている。今回、改めて手術件数などと治療成績の関係を検証することになった。
年間手術件数による制度ができてから、件数の院内掲示も要件とされ、情報開示が進んだ。今年度、診療報酬上の加算はなくなったが、院内掲示は手術の保険診療の要件として義務づけられた。
ただし、掲示の対象となる手術は別表のように限られる。患者数の多い胃がんや大腸がん、乳がんなどは、手術が比較的易しいことから対象外だ。腰痛、白内障手術といった高齢患者らの関心が高い分野も含まれていない。
?H4> メディアが不備補完
こうした情報開示の不備を補う形で、読売新聞などのメディアが独自アンケートなどで医療情報の提供を行っているのが現状だ。
同じ病院でも熟練した医師と研修医では当然、技術差がある。今回の調査研究で、医療機関単位ではなく医師一人ひとりの、精度の高い医療情報の開示につながることが期待される。
分科会長の福井次矢・聖路加国際病院長は「医療機関が治療成績のデータを開示することは、患者本位の医療のために重要だ。ただ、治療成績を左右する要因は手術件数などだけではなく、数値の解釈は単純ではない。科学的な検証を行う意義は大きい」と話す。
手術の保険 診療の要件 国の定める高度な手術について、前年の実施数を都道府県社会保険事務局に届け出て、院内掲示する。また、すべての手術について、文書で患者に手術内容を説明することが義務づけられている。
「情報あれば…」悔やむケースも 術後妻が寝たきり
山口県の男性(85)は昨年から、足腰に痛みとしびれを感じた。右足を引きずりながら、なんとか歩く。「治療を受けるなら信頼できる病院で」と思っても、どの病院が良いのかわからない。
5月上旬、本紙くらし健康面「病院の実力」で特集した腰痛手術の主要病院の実績一覧を目にした。本紙が全国の医療機関に独自のアンケートを実施、病院ごとの手術件数などをまとめたもの。この記事をもとに、男性は近所で治療実績の豊富な病院を受診。背骨の神経の通り道が狭まる脊柱(せきちゅう)管狭さくと診断された。
本紙調査では、脊柱管狭さくの手術件数は、学会の認定医が所属する医療機関でも、年間364件から0件まで格差が大きかった。男性は「手術すべきか相談するにも、経験の乏しい病院では話にならないと思っていたので、データが参考になった」と話す。手術なら、体に負担が少ない内視鏡手術もある。記事をもとに内視鏡手術の得意な別の医師の話も聞くつもりだ。
四宮謙一・東京医科歯科大整形外科教授は「腰痛手術の実施件数は、医師の技術だけでなく、病院として安全な患者管理システムが整っているかどうかの目安になる」と指摘する。
直腸に腫瘍(しゅよう)が見つかった兵庫県の男性(64)は昨年、医師に「肛門を切除し、人工肛門になる」と言われた。
だが、「病院の実力」の大腸がん特集を読み、手術件数の豊富な医療機関の医師にセカンドオピニオン(主治医以外の医師の意見)を聞いた結果、「肛門を残す手術を受けることができた」と喜ぶ。
一方、「もっと早く医療機関の情報があれば」というケースもある。関東地方の男性(78)は、食道がんになった妻が手術後に寝たきりになった。食道がん手術は難しいとされるが、後に、手術を受けた病院は年間数件の実績しかないと知った。「経験豊富な病院にかかっていたら」という思いが消えない。
集約化 地域事情も考慮必要
手術件数だけが治療の水準を示す目安ではないにしても、一定の治療実績があることは、患者が病院を選ぶ際の貴重な手がかりになる。だが、こうした基本的な情報も、十分に得るのは難しいのが現状だ。
治療水準を高めるため、高度な手術は実施する医療機関を集約化すべきだとの指摘もある。ただ、それを実現する手法として診療報酬で差をつけることが適切とは限らない。
各分野の手術を行う医師や病院が、どれだけ必要か。地域の事情も考慮し、全体の構想を描くことが必要ではないだろうか。(田村)
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