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百花繚乱(ひゃっかりょうらん)
武田 和夫
<1>
とべない沈黙
「ナガサキアゲハ ハ 純亜熱帯系ノ蝶(ちょう)ノ一種デ 主トシテ ザボンヲ好ンデ食シ 時ニ 人を食ㇻウ」
蝶(ちょう)の話である。が、夜の蝶の話ではない。
今から五,六十年前に封切られた映画「とべない沈黙」の話だ。人を食う話に飛びついた。元来こういった話に弱い。昔、「マタンゴ」という怪奇映画に感動して忘れられない映画になった。難破した船が孤島漂着する。乗っていた先客の男女が歓喜の声を上げて上陸した。東宝映画らしい風俗描写が野暮(やぼ)ったく、時代の流れを感ぜずにはいられない。
孤島の大地を埋める巨大なキノコが無気味(ぶきみ)だ。キノコの甘い香りに引き寄せられてゆく船客たち。数年前、DVD化されたので、入手は難しくないと思うが。
「この映画は現代の寓話(メルヘン)です」と、シナリオを担当した黒木和雄が語っていたように、一羽の蝶を狂言回しにして、長崎を出発し、萩、広島、京都、大阪、香港、東京を経て北海道に達する。「とべない沈黙」を制作したドキュメンタリーの職人の目は、人間のドロドロした底辺を冷たく乾(かわ)いた外科医の様に描いた。蝶の化身を演じた加賀まりこが神秘のオーラを発して夢の様に美しかった。
「とべない沈黙」を上映した映画館の隣に居酒屋「秋田」があり、原田康子さんや高城高さんたちとよく飲んだ。原田さんはカンカイやコマイが好物で、芸術的な召し上がり方を披露してくれた。原田さんは酒なら何でもガンガン飲んだ。一度、原田さんにこっぴどくやられたことがある。仲間は皆んな原田作品を読んでいないのが不満だったのだ。それが爆発した。結論から言おう。原田作品は面白くなかったのです。でも、それは言えない。とうじ、はらださんはスランプで同じような作品を濫作していた。参ったのが道新日曜版だ。物語が止まってしまった。
作者も、それを知っていた。やれ川端康成や五木寛之たちと飲んだ話をしていたが、心の中ではで泣いていた。全ては去勢だ逢った。当たる人がいなかった。遊びに行くといつも通りに薄い紅茶gz出された。しかし作者は死んでいた。爆発したのは人生後半に差し掛かてからだった。
映画で始まった話は、矢張(やは)り映画で締めくくりたい。加賀まりこはいいが、わたしは八千草薫さんが凄(すご)いと思う。「宮本武蔵」のお通の美貌(びぼう)が伝説化しているよ。札幌市の南一条西五七丁目、郵政互助会ビル内の喫茶店でデコイ展に来てくれた。デコイ一帯を求めて風の如くさっさと消えていった。店のマスターが八千草薫だと騒ぎだしたのはだいぶ後になってからだ。(フリーライター)
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