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不思議な話

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わたし、そしてわたしの周囲の方々が体験した奇妙な出来事を紹介いたします。
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不の155「落石」

 祖父から聞いた話。

 祖父が幼かった頃のことだそうです。
 その夏も終りに差し掛かった頃、たわわに実ったアケビをせっせと採っていると、山頂の方から腹の底が震えるほどの音がするので、何事かと見上げたところ、山頂からとてつもなく大きな岩が祖父目掛けて転げ落ちて来るのが目に入ったそうです。
 これはどう足掻いても避けられそうもないと、何故か落ち着いた気持ちで大岩を見上げていると、大岩は転がりながら見る見る縮んで行き、最後には小さな石ころになって爪先にコツンと当たって止まってしまったのだとか。
 ははん、これはムジナの仕業だな、とアケビを一つ置いて家路についたとの事。

「神棚の裏ん方ば見てみれ」と言うので脚立に登って探ってみると、小さな石ころがひとつ。
「そいがそん時の石よ」
 少し誇らしげに語った祖父でした。
 子供の頃、父と二人で山に入りました。
 帰る頃になって不意に霧が出てきたので、父に手を引かれながら山を下っておりました。
 と、先を行く父の手に力がこもりました。
 痛さに父を見上げると、父は前を睨んだままいつになく険しい表情。
 父の視線の先を追うと、霧の中にこちらに向かって登ってくる人影が……。
 わたしが声を掛けようと息を吸込んだ矢先に「黙っちょれ」と父。山で人に出会ったならば必ず挨拶するように、と躾けたのは他ならぬ父だった筈なのに……、と訝っていると「目ば瞑れ。おいが良かっち言うまで瞑っちょれ」と続けます。
 言われるがままに慌てて目を瞑りました。
 ジャッ、ザリッ、ジャリッ、ザッ。
 前方から、つまり下から下生えや土砂を踏みしめる音が登って来ます。
 ザッ、ジャリッ、ザリッ、ジャッ。
 音はわたしの横を通り過ぎ、やがて後ろに、ゆっくりと遠ざかっていきます。
 目を瞑りながら息も止めていたわたしはもう限界寸前でした。
 やがて足音が聞こえなくなりようやく「もう良か」との父からのお許しが出て、わたしは大きく息を吐き、恐るおそる目を開けました。振り返ろうとするわたしの手を強く引きながら父はずんずん山を下り続けます。
 父に引きずられながら、先程の人は誰だったのか訊ねましたが、父はしばらく考えた後やがてぽつりと「誰でん良か」とだけ言い、それきり黙りこんでしまいました。

 それから十数年経った頃、ふと思い出して父に訊ねたところ、「あいはオイやったとよ」とふて腐れた様に言ったのでした。ちなみにオイとは鹿児島弁で自分の事。
 言われてみればあの足音は父の愛用していたスパイク付きの地下足袋のそれと同じ……。
 春とは名ばかりでまだ肌寒かった頃のこと。最寄駅に着いたのは日付も変わろうかという時刻。早足で改札を抜け、自宅へと向かう道すがらでの出来事です。

 交差点に差し掛かると生憎の赤信号。
 仕方なく信号が変わるのを待っていると足元をかすめて一匹の猫が道路に飛び出しました。そして直進してきた乗用車にポーン。

 数メートルも跳ね飛ばされて落ちた猫はそのままコロコロと転がります。
 コロコロコロコロ……。
 なかなか止まりません。
 コロコロコロコロ……。
 まだまだ止まりません。
 コロコロコロコロ……。
 むしろ加速している様な勢いです。
 コロコロコロコロ……。
 やがて猫はそのまま闇に紛れて見えなくなってしまいました。
 その方の奥さまは三十四歳という若さで亡くなられたそうです。
 仕事も家事も手を抜かない頑張り屋さんで、 赤ちゃんも大好きで、早く子供を授かりたいとおっしゃっておられたとか。
「この間三回忌を迎えました」
 リビングのローチェストの上に置かれたマンション向けの小さ目の仏壇を振り返りながらそうおっしゃる旦那さま。
 焼香させて頂こうとしましたら電子ロウソクに電子線香。
 火の気を気にしての事かと思いましたら、亡き奥さまの香りが消えてしまわないためなのだとか。
 毎日欠かさず奥さまのお気に入りだったコロンを染み込ませたパフを位牌の裏側に置き、香りだけでも亡き奥さんの気配を感じ続けたいとの想いから、自身、愛煙家であるにも関わらず喫煙場所はベランダと決め、室内では一切吸わない様にしておられるとのこと。
 香りは記憶と密接な関係にあるとか。
 なるほど、と思いながら電子ロウソクと線香のスイッチを押していると背後から旦那様が話しかけてこられました。
「時々なんですけど、水をそなえる湯呑の縁にほんのりと紅が付くことがあるんですよ」
 そんな勇気を持ち合わせていないわたしは慌てて仏壇から離れたのでした。
 西川口の駅前から十数分も歩いたところにある古びた中華料理店。遅れてやって来たSさんは向かいの席に座るとビールを注文した。
 若い頃いろいろとやんちゃを繰り返して来たらしいSさんだが、現在では西川口駅そばで理髪店を営んでいる。
 Sさんとはひょんなことで知り合い、子供の頃の奇妙な体験談など教えてもらった間柄である。また同郷という事が判ってからは更に意気投合し、近所の大型古書店に二束三文で買い叩かれる位なら、と不要になったコミックの類はもっぱらSさんの理髪店に持ち込む事にしている。
「カラカネ物がお好きだと……」
 カラカネとは唐銅と書き、青銅の事である。
 そう言ってSさんが肩掛けカバンから取りだしたのは青銅鏡であった。聞けば先日出掛けた蚤の市でたまたま見掛けて手に入れたとのこと。
 手に取り裏返すと漢字の山の字が斜めに傾いた紋が五つ丸く均等に配置されている。
 山字鏡である。それも五山鏡。本物だとすれば少なくとも紀元前三世紀の頃の戦国時代のもの、となる。同種に山の字が四つある四山鏡や、六つある六山鏡がある。ちなみに傾いた山の字と言ったがこれは漢字ではなく鉤付きの雷紋で、殷周青銅器に見られる鉤連雷紋と呼ばれる文様と同一とする見方もある。以前訪れた台湾の故宮博物院で見た四山鏡の解説にそんな事が書いてあったのを覚えている。
「完品……でしょ?」とSさん。
 そうなのである。青銅器は脆い。ちょっとした事で簡単に割れてしまう。故に古い時代の青銅器で完品は意外と少ない。実際発掘される青銅器は鏡であれ、鉾であれ、有名な銅鐸であれ、出土時には殆ど割れている。故に完品の青銅器の殆どは後の時代の複製品である可能性が非常に高い。
 殷の頃の饕餮紋と呼ばれる紋様は好みだが、山字紋はそれ程でもない。しかし折角わたしのために手に入れてくれたのだから……。
 札入れから五千円札を取り出そうとすると「いえいえ……」とSさん。ならばと引っ込めようとすると慌てて手を伸ばしてきたので、感謝の言葉と共に手渡した。

 自宅に帰り、青銅器を手に矯めつ眇めつする。鏡面部分は結構くすんでおり、影すら映らない。
 本来鏡面は現実世界の森羅万象を映し、背面は天空の空間を象徴的に表すとされる青銅鏡である。ならばその任を果たさせてやろう。なに、値段から言っても骨董的価値など気にする事もなかろう。

 休日、近所のホームセンターで購入した金属用洗剤を染み込ませたマイクロファイバークロスでまず裏面をせっせと磨く。やがて白みを帯びた感じになり、更に山字紋の間に薄っすらと何やら蕾と蔓のような紋まで浮かび上がって来た。ふむ、これはなかなか。
 さて問題は鏡面である。下手に磨くと変な凹みが生じてしまうので、長めの文鎮にマイクロファイバークロスを巻き付け、そこに金属用洗剤を垂らして力が均等に掛かる様に慎重に磨く。何度となく文鎮を往復させるうちにやがて鏡面が白みを帯び始めた。
 磨き終えてテーブルライトの灯りをリビングの壁に反射させ、浮かび上がった文字に驚いて手から滑り落とした青銅鏡はフローリングの床であっけなく砕け散った。

 壁に浮かび上がったのは「怨」のひと文字。

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