ひとつ齢をとって
あなたと近くなる
年の間が短かくなって
あなたがよくみえる
背のびしてた分だけ
心も大きくなって
あなたの愛も近くなる
黒木瞳
第一詩集「長袖の秋」より
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停車場のプラットホームに
南瓜の蔓が葡いのぼる
閉ざれた花の扉のすきまから
てんとう虫が外を見ている
軽便車が来た
誰も乗らない
誰も下りない
柵のそばの黍の葉つぱに
若い切符きりがちょっと鋏を入れる
木下夕爾詩集「晩夏」より
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カタバミの葉っぱは
暑中休暇のように酸っぱい
僕は中学生だった
たくさんの宿題で
僕らの夏は重かった
青い青い空
白い白い雲
写生帳のブランクに
僕はペンペン草の実でカタカナを書いていた
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畑にしゃがんで嚙る
薄荷の葉は
ジレットの味がする
Mentha Piperita というラテン語の味もする
あ 舌といっしょに
僕の記憶が切断される
木下夕爾詩集「田舎の食卓」より
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私の耳は貝のから
海の響をなつかしむ
堀口大學「月下の一群」よりジャン・コクトオ
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八月の金と緑の微風(そよかぜ)のなかで
眼に沁みる爽やかな麦藁帽子は
黄いろな 淡い 花々のやうだ
甘いにほひと光とにみちて
それらの花が 咲きにほふとき
蝶よりも 小鳥らよりも
もっと優しい生き者たちが挨拶する
立原道造拾遺詩篇より
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