スーパーマンは駅前の本屋さんで
スーパーマンの漫画を5さつ買いました
自分のことがのっているので嬉しくて
少しだけ空を飛んでみました
それからマクドナルドへ寄って
天ぷらうどんを注文したのですが
みんながげらげら笑うので困ってしまって
笑わない悪漢を探しに出かけます
スーパーマンには実は恋人がいるのです
恋人は紫色の仔豚と同棲しています
谷川俊太郎詩集「スーパーマンその他大勢」('83)より
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音楽がよくきこえる
だれも聞いていないのに
ちいさなフーガが 花のあいだを
草の葉のあいだを 染めてながれる
窓をひらいて 窓にもたれればいい
土の上に影があるのを 眺めればいい
ああ 何もかも美しい! 私の身体の
外に 私を囲んで暖かく香よくにおうひと
私は ささやく おまえにまた一度
──はかなさよ ああ このひとときとともにとどまれ
うつろうものよ 美しさとともに滅びゆけ!
やまない音楽のなかなのに
小鳥も果実(このみ)も高い空で眠りに就き
影は長く 消えてしまう──そして 別れる
立原道造詩集「優しき歌Ⅰ」より
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こゝにこうして待っている、或る時の
僕の少年 僕の秘密……
そうして僕の 知らない人の
忘れた 誰かの とおい出発
人は ハンカチをふっている
人は 窓からほほえむ
人は お辞儀をする
そうしてどこかへ行くのだろう──
( そう 僕は 帽子を用意した
それから紙より白い肌衣を
そうしてさがしに行くのだろう )
プラット・フォームで手をふった 或る時の
僕の昨日、 僕の少年……あれから
あの人だけいない すぎた幾つもの出発
拾遺詩篇・草稿より
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雨あがりのしずかな風がそよいでいた あのとき
叢(くさむら)は露の雫(しづく)にまだ濡れて 蜘蛛の念珠(おじゅず)も光っていた
東の空には ゆるやかな虹がかかっていた
僕らはだまって立っていた 黙って!
ああ何もかもあのままだ おまえはそのとき
僕を見上げていた 僕には何もすることがなかったから
(僕はおまえを愛していたのに)
(おまえは僕を愛していたのに)
また風が吹いている また雲がながれている
明るい青い暑い空に 何のかわりもなかったように
小鳥のうたがひびいている 花のいろがにおっている
おまえの睫毛(まつげ)にも ちいさな虹が憩(やす)んでいることだろう
(しかしおまえはもう僕を愛していない
僕はもうおまえを愛していない)
立原道造詩集「萱草に寄す」より
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あの日たち 羊飼いと娘のように
たのしくばっかり過ぎつつあった
何のかわった出来事もなしに
何のあたらしい悔いもなしに
あの日たち とけない謎のような
ほほえみが かわらぬ愛を誓っていた
薊の花やゆうすげにいりまじり
稚(おさ)ない いい夢がいた──いつのことか!
どうぞ もう一度 帰っておくれ
青い空のながれていた日
あの昼の星のちらついていた日……
あの日たち あの日たち 帰っておくれ
僕は 大きくなった 溢れるまでに
僕は かなしみ顫(ふる)えている
立原道造詩集「萱草に寄す」より
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