十年前、バスを降りて
橋のたもとの坂をのぼり
教会の角を右に曲って
赤いポストを左に折れて三軒目
その格子戸をあけると
長谷川君がいた
きょう、バスを降りて
橋のたもとの坂をのぼり
教会の角を右に曲って
赤いポストを左に折れて三軒目
その格子戸をあけると
やっぱり長谷川君がいた
杉山平一詩集「声を限りに」より
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この一本の道は夕日にあはあはと白くかがやいている
左側はコンクリートのひややかな倉庫の壁
一人の青年と一人の少女が話しながら歩いている
右側には河がゆっくりと流れている
二人は長い影をうしろに残しながら
目を日に射られてまぶしそうに
顔は白く美しくほほえみながら
大股に歩いている
愛についてたのしそうに希望にもえて話している
あと何時間かたって夜になったら
二人はどこかの街角でさようならを言うだろう
この道は暗くなり街燈にこうもりがまつわりつくだろう
河はどんより重くしづみこみながら流れるだろう
倉庫はまっ黒い怪物のようにそびえるだろう
二人は一人づつになるだろう
その一人づつがどんなに今日の愛を保とうと思っても
わけのわからない力がすぐそれをぶちこわしてしまうだろう
たった一人の心の中で
青年も 少女も
自分の心のきびしい存在に気づいておびえるだろう
この一本の道は夕日にあはあはと白くかがやいている
小山正孝詩集「逃げ水」より
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窓がしまったまま
留守の日がおおかったけれど
いま住むひとも帰りが遅いのだろう
その下を通りながら 仰ぐ
むかし友が住んでいた部屋
ここで私達はたびたび会った
私達は貧しかったけれど若かった
過ぎさってしまった
それらのにちにちよ
友よ
ゆうがたの燈火のように儚く暖かく
きのうのように新しく
むかし友が住んでいた部屋に
いま住むひとは誰だろう
窓がしまったまま
しまい忘れられた洗濯ものが風に吹かれていた
大木実詩集「遠雷」より
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夕日
沈みそうね
………
賭けようか
おれはあれが沈みきるまで
息をとめていられる
いいわよ息なんかとめなくても
むかしはもっとすてきなことを
いったわ
どんな?
あの夕日の沈むあたりは
どんな街だろう
かんがえてごらん
行ったふりして
住むたのしさを…
忘れたな
どんな街だったの
行ってみたんでしょ
ひとりで
ふつうの街さ
運河があって
長い塀があって
古びた居酒屋があった
そこでお酒のんでたのね
のんでたら
二階からあの男が
降りてきたんだ
だれ?
黒い外套の
おれの夢さ
おれはおもわず匕首(あいくち)を抜いて
叫んじゃった
船長 おれだ 忘れたかい?
ほんと?
ほんとさ
………
沈みそうね
夕日
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さよならだけが
人生ならば
また来る春は何だろう
はるかなはるかな地の果てに
咲いてる野の百合何だろう
さよならだけが
人生ならば
めぐりあう日は何だろう
やさしいやさしい夕焼と
ふたりの愛は何だろう
さよならだけが
人生ならば
建てたわが家は何だろう
さみしいさみしい平原に
ともす灯りは何だろう
さよならだけが
人生ならば
人生なんか いりません
寺山修司「人生処方詩集」より
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