教授
その 甘美なる響きを、小学生の頃から繰り返しつぶやき、くちずさみ、日記の一節に記しながら、T少年は勉学にいそしみ、視力も、青春も犠牲にして、Yゼミで一年浪人するも、気付いたときには、最高学府の門をくぐっていました。
子供の頃、「将来何になりたいの?」と(地元の 神童であった彼は)尋ねられるたびに、
「僕は教授になりたいのです!」
と言い放ったものでした。
T少年のママは「あなたは教授になるのよ。それに、医学部に入れば、もてまくって、彼女を選びたい放題よ」という主旨の言葉を「ママの言葉」で繰り返し囁きました。
さて、入学しましたが、ママが繰り返しささやいた「自分を追いかけて回す美少女たち」は現れませんでした。5月ごろのクラスコンパで
「噂の1000分の1でもいいから、もてたい!!」
という彼の魂の叫びが聞かれました。噂でなくて、ママの話ですが、まあ良いとしましょう。
「でも、いいや、だって、僕は教授になるんだから・・・」とさらに「上昇志向」をつのらせていきました。
時は流れ、T少年はすでにオーベンT先生となり、出世の条件の一つ、「どこかのお嬢様」を奥さんにして、生活費まで出してもらってました(T先生の身分は医員。月給15万くらい)。常人なら、
かなり、肩身が狭い状況
だと思うのですが、T大先生の視線は、地平線の先の未来の医局の頂点を見てるのです。
僕は教授になるんだから、そのくらいの出費はして貰わないとね
とは!!さすが、器が違います。
T先生は新居も教授の家の近所に買い、
おそば仕えをするには、これくらい当然だよ
とおっしゃり、嬉々として、教授の送迎をしていました。余りにも、おそば仕えが忙しくて、医局には滅多にお運びになりません。しかし!!!
教授回診では、教授の傍らで、もみ手をしながら、お役目を果たされます
T先生の語彙は、大変重要なものだけに限られ、下々の医師である我々が耳にするのは、
教授に向かって「おっしゃる通〜りです」「お見事です!」
目下の者に「おまえ、教授の指示を守ってるか?」「教授のお話をありがたく思え」
などの数種類だけでした。
ごくまれに医局においでになると、我々にありがたいお話をされました。医局には説教系の人が多いのです(←おっといけない)
出世するには、ヨイショが一番重要だ。特に教授はゴマスリが大好きだ。俺はヨイショで教授になるぞ
でも、その瞬間、T先生はとっても疲れて見えました。
時は更に流れ、「T先生が左遷された」と聞きました。(それを粛清という人もいます。単純にクビになることもあります)大学病院では日常茶飯事です。が、教授や助教授が交代する時が多い気がします。教授は・・・今も活躍されています。
そして、大学病院には、T先生のように人生をかけて、教授をめざす医師たちが、薄給に耐えながらひしめいてます。T先生は、もしかしたら、大学病院を出て、楽になれたかも知れません・・・。
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