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「人の迷惑も考えず、ずいぶん遠い所でやってくれるよな。まったく」 数時間後にはレオタードの女の子で華やぐ鳥取市民体育館、広い客席でぽつねんとしていたところに声 をかけてきたのは、原田くんだった。 「あれ? 甲子園の開会式は?」 「忘れたのか。俺は浅倉南のファンなんだぜ」 「同じく」 「新田くん! 昨日はどうもありがとう。駅まで送ってくれて」 でも、 「どう? 調子は」 そんな新田くんの呼びかけには、 「ダメみたい…」 と呟くしかなかった。 「昨日の夜、夢見たのよ。タッちゃんの。昔からタッちゃんが夢に出てくると、その日必ず悪いことが起 きるんだ」 「何バカ言ってんだ」 原田くんのちゃかしにも、続けるしかなかった。 「本当なんだってば。解るのよ自分でも。朝起きてここに来る途中もイヤでイヤで仕方なかった。こんな の初めてだもの」 「浅倉南のせりふじゃないなァ」 新田くんのおどけの台詞にも、 「そう言われましても、ねぇ。やだな、逃げちゃおうかな」 ふと見ると、二人とも驚愕と呆然が入りまじった顔をしている。でもまだ言葉が終われなかった。 「きっと目茶目茶になっちゃうもん。笑いものになっちゃうもん」 「おいおい、ま、緊張する気持ちは分かるけどよ」 原田くんは、何も解っていない――。 「緊張なんかとは違うのよ。なんで私、ここにいるんだろ」 でも、なんで二人にここまで言ってしまったんだろう。 「南ちゃん」 「あれ?」 気づいたら、ぼやけてた。 「あれ? 参ったなァ」 滲んだ視界の男の子ふたりは、今度こそ二の句が告げられないようだった。私は耐え切れず、 「情けね」 と言い残して逃げ去るのが精一杯だった。階段を駆け下りるなかで、タッちゃんがカボチャパイを試食 した日のことを思い出していた。 |
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