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「丸山ァ頼むぞォ なんとしても上杉のまえでランナーに出ろ!」
管理野球をしてる西尾監督の怒号に近い声援。負けてるわけでもないのに今までとまるで違う熱血の姿に南はいぶかってた。
「甲子園準優勝の須見工と五分に戦ってるんですよ? これだけでもすごいことじゃないですか」
「バッカモノ! 勝つんだ、なんとしても」
初めて見る敵対心の視線の先は上村監督だった。私はそれで二人の関係、特に西尾監督が負けつづけてきたという因縁を察したけど、南の思いはしょぼい打球音でいったん中断することになる。ボテボテでもグラウンド整備を怠ればエラーしてくれることもある。
「やったやった!」
「監督監督、ぼくですよ、グラウンド整備に手を抜いたのは」
南は突っ込みを入れたかったけどすぐタッちゃんの打席。試合に集中することにした。それに今回のデータが次になる筈の須見工戦との公式戦に役立つはずだった。
「ようし上杉、いけーっ!」
「チエッさっきの三振忘れたんですか? とんでもない球を空振りして」
長所と短所がころころ変わるタッちゃんは、吉田くんの揶揄を無視する鋭い打球。南は一瞬だけど、確かに吉田くんをバカにした気持ちを持ったのです。監督たちと一緒にセンターを深く飛ぶタッちゃんの打球を眺めながら。須見工の守備陣もタッちゃんのバッティングを甘く見過ぎてたと思う。俊足だった須見工のセンターから考えて、ちょっとでも警戒されていたら外野フライだった。
でも二塁に足が届いたタッちゃんに押し出されるように、吉田くんは生還できた。1対0.まさかの明青の先制! もっとも須見工のピッチャーが崩れたわけじゃなかった。次はバッティングで四番に入ってる孝太郎くん。あちらにとっては計画通り、見事にタイミングを外されてセカンドゴロに打ち取られてしまったのです。
回は替わって七回表。大股歩きでマウンドに上がるタッちゃんに、少し危惧を抱いてた。
「勝てる、勝てるぞォ。ハッハハハ。上村め、みてろヨ、こんちくしょう」
危惧を抱いていたならしっかり試合に集中すべきだった。南らしくもなく身の上話を聞いてみたいと思ったのがいけない。
「個人的な恨みでもあるんですか、あの監督に」
直後に聞いたのが超高校級の音。この年の夏の甲子園でも再三響かせた快音だった。もちろんうち以外との練習試合でも対戦相手が必ず聞かされた音のはず。フェンスのすぐ前に立つライトの吉田くんの頭上、すぐ向こうの住宅の屋根に当てられたのです。
新田くんの妹さんは言ったらしい。
「みたか! 半端な力じゃお兄ちゃんの本当の力は計れないのよ。相手の力を認めたときのお兄ちゃんは別人なんだから」
そのときの南は、タッちゃんだけが心配だった。 [3930touch.txt]
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