小説「タッチ」

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「須見工相手に、連続9三振……」
 とは見ていた記者の一人の言葉。そして当の須見工の上村監督も、
「新田が空振りの三振……?」
 とつぶやいたという。それはまさに快挙だった。すでに取材での付き合いのあったスポーツ記者から、あれは江夏のオールスター9連続奪三振に匹敵する快挙だと、少しあとになって南に教えてくれたっけ。南自身は甲子園への本当の第一歩だと、誇らしい気持ちでタッちゃんを迎えたのです。
「上杉、おまえからだ」
 9回裏があったんだっけ。南も正気に返ってしまい、なかなか二人だけの世界にさせてくれない。
「ようし、これで負けはなくなった。ざまァみろ上村め」
 突っ込みの孝太郎くんの次はボケの西尾監督。南にはいまさら監督と漫才する気なかったけど。
「いけーっ上杉、サヨナラゲームだ!」
 南はただ、タッちゃんのバッティングに集中しようとしてた。そしたら一球目の内角低め! 腰を引いて上手く捕らえた打球はレフトの手前にライナー性で落ちるはずだった。ジャンプ一番、シングルハンドで掲げた新田くんのグラブに、魔法のように納まったのです。本気にさせちゃった。南はそのとき気づいてた。次の4番孝太郎くん、5番ファースト広瀬くんともども三振を喫し、長いページを割いた明青対須見工の連取試合は終わったのです。

 ゲームセット直後の監督同士の子供のけんかは置いておいて、須見工の帰り際に一塁ベンチを通り過ぎたときの新田くんの台詞だけ書き記すことにする。
「また野球がおもしろくなりそうだ。ありがとうよ」
 それだけ。タッちゃんと南がならんでたのに止まって会話もせずに去ったのです。一回南が水をぶっかたときは照れた顔を見せてくれたので、ポーカーフェイスは対面をつくろっているだけと分かりおかしかったっけ。
「あいつを一試合抑えるのは大仕事だな」
 タッちゃんは野球の凄さと面白さに気付きはじめたみたい。
「だいたいあいつを、あんなすごい打者にした責任は和也なんだぜ。なんでおれが相手させられなきゃいけねえんだよ」
「タッちゃんがカッちゃんの代わりになるなんて誰も思わなかったでしょうね、南以外は」
 自信をもって言った南は、タッちゃんの表情を見なかったのです。そして吞気にヒーローインタビューに送り出したっけ。吉田くんの怨嗟の瞳がこちらに向けられているとも知らずに。
 あそうそう、勢南の西村くんも途中から来て、原田くんと新田の妹さん観戦してたようだけど、うまい具合に挿入できなかった。ごめんね、西村くん。

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大塩高志
大塩高志
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