|
新田くんの四度目の甲子園、二年生から三年生にかけての春のセンバツは、あっけなく幕がおりた。
「あの新田くんでも、やっぱりあがったのかなァ」
南風がふく春の朝、南はいつも通りタッちゃんと登校してる。
「どんなプロ野球の名手だって、エラーしなかった奴はいねえよ」
それはそうだけど。
「新田にとってそれが、たまたまあの場面だったというだけで。あんなもん、気まぐれな神様のせいにするしかねえよ」
だとしたら新田くんにとってひどく残酷な神様だった。タッちゃんがエースの明青が西村くん率いる勢南に敗れた昨年の予選大会、代表を勝ちとった須見工が決勝戦で戦った相手だった。そう、今回の選抜高等学校野球大会でも立ちふさがった、須見工の唯一のライバル校だったのです。しかも新田くん自身の失策で逃した優勝旗であり、タッちゃんと一緒に見た南は茫然自失してた。
「…ただハッキリいえるのは、優勝できなかったぶん、夏の予選大会の須見工が手強くなったことだな」
それはいえる。つまり確実に明青と当たるということ。
「しかし、負けるわけにはいかないぞ、甲子園へのラストチャンス」
南は突っ込んでほしい言い方をしたっけ。
「ラストチャンスか。春なん番だかしらねえけど、すっかり南風だな」
突っ込みとしては少し弱い。
「あっというまに高三か、早えもんだ」
「そうだぞ、ここで南を甲子園につれて行かないと、一生ぼやくからな」
だから南の方が突っ込みにまわり、タッちゃんに活を入れることにする。
「一生…?」
「頼むぜ、上杉!」
タッちゃんの腰を鞄で叩いて。すでに新田くんがスリーランを打ったのに自分のエラーが決勝点になったことなど、南も話したくなかった。特にタッちゃんとは気軽な気持ちでいたかったから。でも一人の男性が高等部に来ていたことなど、そしてその人がタッちゃんと南、明青野球部に巨大な波乱を巻き起こすことなど、この日の授業中まで全く知らずにいられてた。
名前は自分で紹介する場面で書くとして、今にして思えばタッちゃんと南、そしてカッちゃんの関係を高校の門をくぐる前に知っていたんだと思う。でなければ部活に遅刻したタッちゃんとの初対面、鉄拳の挨拶は説明つかない――。
[3964touch.txt]
|
全体表示
[ リスト ]


