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「で、どうだったタッちゃん?」
南は南風の店番をしてた。いつものことだから上杉家まっても良かったけど、一緒に帰れなくなった理由を事前に知れたから、わざわざお邪魔する必要ないと思って。それに私がカウンターに―入れば、お父さんを休ませることができる。看板娘の南ちゃんで繁盛してる南風でもこの頃は新体操でいない日が
多くなり、内密な話をするには打ってつけと思ってた。タッちゃんはキャプテンの幸太郎くんと一緒に、入院中の西尾監督に見舞がてら、新監督の情報を聞き出しに行ってくれてたのです。
「想像してた以上のことは、何も」
結果的にはこの時点では、野球部の内輪だけでとどめておくべき情報は何もなく。西尾監督の教え子、信頼できる指導者という、校長先生から教えてもらったこと以外には。だから南も直談判した校長先生とのやりとりをふつうの声の大きさで教えてあげたっけ。
「西尾監督ならくわしく知ってると思ったんだけど」
「でも南ちゃん、野球を心から愛し、人を思いやり、まじめで一生懸命」
「なにそれ、孝太郎くん」
そうそう、めずらしく孝太郎くん、南風のコーヒーを一口飲んだあとの台詞。
「よく覚えてるなァ。柏葉英二郎のみたて」
「あの暴力監督のこと?」
「ああ南。だから当分帰ってこねえぞ」
「それじゃあ南も野球部に帰れないじゃない」
「文化のちがいだな、野球部は強くなるかもしれないが、やめる部員が続出するぞ」
「そんなタッちゃん、予選までに9人残ってる?」
「さあな」
「でも上杉、どうする?」
「なんだよ?」
「新監督に信じてついてくか、今日のように反抗するか」
「監督、西尾監督の言うことも信用ならないからなァ」
南はちょっと驚いた。
「じゃあタッちゃん、人違いだっていうの?」
「さあな。人違いじゃないかもしれない。ただ、おれを見る目は敵意がこもってたぜ。サングラス越しでも雰囲気でわかる。元ボクシング部だからな」
そう言われてしまえば、南も納得するしかない。でも引っかかることを言ったことにも気づく。
「じゃあ新監督、タッちゃんと南、そしてカッちゃんのことを知ってるって云うの?」
「南、おれの憶測だぜ。ただ病院の監督、新監督がこれまで何をしてたか知らないことは確かだ」
南は苦笑するしかなかった。
「西尾監督らしいといえばらしいけど…」
「じゃ上杉、南ちゃん」
ここを潮時と感じてくれたのか、孝太郎くんはお代を払って二人だけにしてくれたのです。
「タッちゃん、大丈夫なの?」
「今年が最後だからな、やるしかないだろ」
タッちゃんを見つめる目は、ちょっと潤んでたかもしれない。
「無理はしないでね」
「あ、ああ…」
タッちゃんはちょっと戸惑ってた。 [3976touch.txt]
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