小説「タッチ」

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「須見工さえ、いや新田さえいなければ、甲子園連続出場は俺たち勢南のものだったんだ!」
「そいつは危なかったな。あんなヘナチョコカーブ、甲子園で投げられたら地元の恥だ」
 ――あれ?
 実はもう一人のマネージャーの由加さんにつかまっちゃったけど、気になる会話は耳に入る。野球を心から愛し、は眉つばものだけど、卒業して十年経っても高校野球を気にかけている事実。未練かもとこのとき思った。
「そうかい、少しは俺のこと知ってるみたいだな。だが、そりゃあ資料不足だぜ」
 監督代行が鬼なら西村くんは不敵。似た者同士かもと思ったっけ。
「実際に俺の球を打ってから評価してもらおうか!」
 監督のしごきとスコアボードでは無得点に抑えられた西村くんのカーブ、南もタッちゃんたちも高みの見物ができるとわくわくしてた。
「おもしれ」

 後で日時を調べるとちょうどそのとき、校長先生は自分の部屋である人物の調査報告を受け取ったという。南たちが知ったのは予選が終わってから。そのあいだは……。その話はすぐ後にすることになるから、今は西村くんとの勝負を物語ることにする。
「俺たちのことをボロクソにいうんだから、それだけのものは持ってるんだろうな」
「そりゃそうだろ」
「何の裏づけもなく殴られたんじゃたまらねえよ」
 野球部のみんなの言うことはもっともだけど、南はすでに西村くんともども返り討ちに遭うことを予想してた。
「明青学園野球部OB、何番を打ってどこを守っていたのかしらねえけど、まずはお手並み拝見」
 だからタッちゃんのこんな余裕は南は持てなかった――。
「行くぜ!」
 開口一番、バッターボックスに立った監督代行に投げた球は、昨年うちの打線をきりきり舞いさせた、お馴染みのはでなカーブ。
「ストライク、…ですね?」
「ああ」
 ここのところは孝太郎くんの証言をそのまま書く。球威は軽くても普通の高校生がヒットできる球筋ではなく、しかも大柄の柏葉英二郎のストライクゾーンの一角を見事に通ってると、孝太郎くんと監督代行は共通理解できた。そうなると図にのり易い西村くんは勢いづく。
「どうしたい。これがあんたの言う、ヘナチョコカーブだぜ!」
 一球目が外角低めで二球目は内角真ん中。今度もバッターは微動だにせず見送るだけ。
「おいおい」
「なんだなんだ」
「さすが西村だな、あんな大きなカーブをギリギリに決めやがる」
「だいたいああいう偉そうな監督にかぎって」
 手強いと憶測した南だけど、カラ元気の軽口をたたく余裕ができてた。
「がんばってェ、柏葉監督代行!」
 こらこら由加ちゃん、どっち応援してる。
 三球目はやはり外角真ん中。しそしてバッターの両方の二の腕は下がっていて、バットを思いっきり振れる態勢ではなかった。
「あんなもんよ」
「ストライク、バッターアウト、三振!」
 タッちゃんの派手な身振りのかけ声を必要としないほど、柏葉英二郎は西村勇に三振に喫したのです。正直、昨年の明青ならヒット一本さえ覚束ないと思った。


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大塩高志
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