小説「タッチ」

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 ――あぶないタッちゃん!
 暴力監督の面目躍如かと一瞬思った。タッちゃんめがけて放られたバットに私は一瞬ひるむ。でもあとから考えれば監督代行は初対面のときタッちゃんのフットワークと反射神経を見てる。
「振ってみろ」
 軽く両手を合わせて捕ったタッちゃんに命令した第一声がこれ。そんなことかいと自信の一振りは、たしかに腰が据わって力強い。野球部入部前に原田くんがボクシング部で鍛えてくれたおかげだった。
「も一度」
「はいはい、よくみてね」
 タッちゃん、二振りめができない。監督代行が竹刀の先でとめてる。タッちゃんも後で驚いてたけど、南も素振りを見極める反射神経とタッちゃんのバットを止める腕力に感心した。もっともそれはほんの一瞬。
「今のタイミングだ」
 一秒もたたずに竹刀を放し、きざな口調で監督代行は言い放ったのです。
「あん」
「よしいけ」
 まさかこれで西村くんのカーブが攻略できるとでも…。
「あんな簡単なアドバイスで打てるくらいなら、だれもくろうしやしねえよ」
「打てるさ。打てなきゃてめえの練習量がたらねえか、才能がねえんだよ」
 南のまさかが当たっちゃった。果たして本当に打てるのやら。しかし後から振り返れば、南やタッちゃんさえ「すごいカーブの西村くん」という偶像を見てたきらいはある。
「打てなかったら毎日の素振りを倍にしてやるぜ」
 バットを叩き付けたタッちゃん。凄いカーブを見せつけられたからか、監督代行のアドバイスを疑ったからか。でもタッちゃんも監督代行を困らせる奥の手がある。
「そのかわり打ったら、南をマネージャーに戻してもらうぜ」
「そうだそうだ!」
「南ちゃんを返せ!」
「バカやろォ!」
 でも鋭い一瞥でひるんじゃう。
「よし、いいだろう」
 ここのところはさすが大人。自分のアドバイスが自分の立場を危うくしても、素直に受け入れる口ぶり。タッちゃんと明青野球部を目の仇にしていると十分察せたけど、意外に感情は複雑かもと少し経ってから気づいたっけ。
「どういうこと南ちゃん? マネージャーに戻せって」
 そうそう、西村くんは知らないことだった。だから言ってやった。
「追い出されたのよ、あのおじさんに」
「へ?」
「あら、監督は先輩のことを思ってしたことですよ。新体操一筋に打ちこませてあげようと」
 もちろん想定内の横槍。でも余裕のあるところを見せたいから突っ込まない。
「南ちゃんを追い出した…?」
「そうなのよォ」
 南の話相手はあくまで南のファンの西村くん。
「ということで、よろしくね西村くん」
「まかせなさい!」
 よし!
「なんたっておれは新体操の浅倉南の大ファンなんだから!」
 しまった、南がボケちゃった。


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大塩高志
大塩高志
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