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「さっきのタイミングだぞ」
 これは孝太郎くんの台詞。
「まかしとけ」
「ぬかせ」
 三人の掛け合い、一塁側のベンチでも丸聞こえ。そもそも孝太郎くんとタッちゃんの会話、
聞こえよがしの大声だったっけ。ヘルメットをかぶり、より試合らしくなったタッちゃんへの第二球! 
西村くんは少し焦ったと言ってた。少しおくれ気味に出したタッちゃんのバットはしかし、空を切った。
南も一瞬なにが起こったかわからなかった。完全にボールの描線を見ることだけに集中してた。空振り
するにしても振り抜いていないのにいぶかり、タッちゃんの表情がヘルメットに隠れているのが分かり、
事の次第を知ったのでした。
「お―い! なんだよこのヘルメットは、おれのじゃねえぞ!」
「あらごめんなさい、間違えちゃった」
 由加さん、ぶりっこポーズで謝る表情は笑顔。とんだスパイと南はすぐ分かったっけ。
「あ、先輩。いいんですか? 新体操の練習に行かなくて」
「まだツーストライクでしょ」
 問われた以上、答える必要はある。
「ああ、あと一球ありましたネ」
「タッちゃんのたのむわよォ」
「まかせなさい、一球あればじゅうぶん! 一度つかんだタイミングは忘れないぜ」
 そう自信もって言われると多少不安になる。
「あ―っ、上杉先輩!」
 同じことが通用するもんですか。昔取った杵柄。南は由加さんの二に腕をつかんで脅したのでした。
「おとなしく見てましょうネ」
「こい西村、おれにおまえのカーブは通用しないことを教えてやるぜ!」
 どこかのスポ根マンガみたいなタッちゃんの大見得、ますます南は悪い気しかもてなくなる。
「バカが…打てるもんなら打ってみろ!」
――やっぱり! 南の予感通り、西村くんの投げたボールは18.44メートルを一直線に、孝太郎くんの
ミットに収まった。カーブを待ってたタッちゃんにはひとたまりもない。十分振り抜いた力強いスイング
だったのに。
「三振!」
 あちゃー。
「こ、こら。ちょっと待て西村、きたねえじゃねえか」
「何がだよ。俺の持ち球はカーブだけじゃないぜ」
 その通り。
「んなこと言ったって、話の流れからいけば当然…」
「まえに一度教えてやったろ。ピッチングは頭よ、駆け引きよ。覚えててっか、んー?」
 今回は人のいいむタッちゃんの負け!
「あーん、残念でしたね先輩。新体操でがんばってくださいネ」
 この後輩に泣きつかれても。ウソ泣きだから癪にさわるだけ。
「ようし。野球部に関係ないものは出てってもらおうか」
 こういうところは厳格な監督代行だ。潮時と南自身も思った。
「さ、南ちゃん。新体操の練習いきましょ」
「お元気で」
 新田さんの笑顔の見送りに従うしかない私、新体操のアイドルスター浅倉南。


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大塩高志
大塩高志
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