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「せっかくとった一点をあっというまに――いやいや気まえのいいこって」
 ライトの吉田くんの毒舌が、一塁ベンチまで届いた。マウンド上のタッちゃんを見ると、身体と顔はバッターボックスの方を向いてるけど、左眼はしっかり後方を窺っていると遠目に分かる。カッちゃんに対してつまらないプライドはないといっても、身内や仲間からの文句は気にする男の子。その点では弟のカッちゃんに似て、一気にくずれる予感を実はしてた。でもすぐ左にマスクを外しておどけた顔の孝太郎くんを見て、切り抜けられると思えたのです。耳を動かして舌を出し、寄り目の顔は何回かのピンチでカッちゃんを安心させた仕草。そんな仕草をバカらしいと思うほど気持ちは落ち着くはずだから。

 南の予想通り、再びしゃがんで構えた孝太郎くんのミットの音は豪快。タッちゃんは新田くんに洗礼を受けてなお、球威が衰えもしなければ弱気になることもなかった。そのとき不意に西尾監督は打ち明け話をし始めたのです。実はこの話が加わったおかげで、西尾茂則という男が青春小説としての『タッチ』に本格的にかかわるキャラクターになる。

「――監督上村とは、」
 ――ん、須見工の監督?
「高校、大学と一緒でな、野球部で同じポジションを競った仲だ」
「どこのポジション」
「結局!」
 遮られた。無視したのか聞こえてないのか。
「ほんのわずかの実力差でわしは一度も先発メンバーにはなれなかった」
 話しているあいだにもタッちゃんの剛速球はますます冴え渡り、監督が
「何しろあいつときたらやたら丈夫でそのあいだ一度も、怪我も病気もなしだ」
 と言い終えると同時に、まず三振一つ。
「あいつさえいなかったら、畜生」
 で一息つけたのか、やっと競ったポジションを
「ライト」
 と教えてくれた。タッちゃんはというと長いイニングを考えなくていいと思って、あるいは吉田くんに見
せ付けるためか、なりふり構わずの剛速球で二つ目の奪三振。よかった。本当にホームランのショックはなかったみたい。一方で隣の初老の人はまだ愚痴が足らないと見え、
「それだけじゃないんだぞ。お互い監督になってから何度も対戦したが、一度も勝ったことがないんだよ」
 もう聞く必要がなかったけど、耳に残ってたから記しとく。
「どうしてなんだろうねェ。一回位いい目見せてくれたっていいじゃないか! ねェあいつばっかり何度も
甲子園に行って、ずるいと思わんかァ。ねェねェ」
「がんばれ、タッちゃん」
 という南の声援を受け、三者連続三振。

「三者連続三振」
 とは言っても本人が言うと南も腹が立つ。
「バーカ、そのまえにホームラン打たれたのを忘れたのか!? もっとくやしがれ!」
「孝太郎が言ってたぜ。スピードも球の伸びも文句ねえから、打った新田をほめてやれって」
 あのねえ。
「そうやってなぐさめて連打されないようにするのは、捕手の役目なの!」
――まったく。
「ウソじゃいよ、南ちゃん」
      な
 孝太郎くん?
「本当だよ。和也と比べても引けはとらない。俺がいうんだからたしかだよ」
 そりゃあ長年カッちゃんの球を受けてきた孝太郎くんの証言だから信頼すべきなんだろうけど。
「じゃあなに? カッちゃんでも新田くんには打たれるっていうの?」
 南自身、カッちゃんのこととなるとヤケに攻撃的になる。
「いいや」
「なんだよそりゃ?」
 突っ込みはタッちゃんの方が一瞬早かった。
今度の



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大塩高志
大塩高志
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