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 9回の表須見工の攻撃。今回は勝敗を決しなければならない公式戦ではないので、延長戦はなし。でも一人でもランナーを出せば三人目の四番サード新田くんに、格好の勝ち越しの御膳立てをすることになる。タッちゃんのプレッシャーはどれほどかと心配したけど、試合後の孝太郎くんの証言によれば、球威がますます増したとのことだった。ベンチから見てた南も、多分意識してのことだったろうけど、目の前のバッターに集中してたのが見て取れた。吉田くんの存在が刺激になったのかもと、南は少しほころんでたはず。

 一人目の三球三振を確認した後、タッちゃんがロージンバックを手にしてるあいだに南はベンチでの
タッちゃんとの会話を思いかえす。

「おまえを甲子園につれていくためには、どんなすごい打者でも打たれるわけにはいかなかったんだ。南の夢をかなえることしか頭になかった。あいつは南のためならなんでもできる男なんだ」
「ほんとかなァ」
「そうさ、それしかない!」

 でもそんな認識なら、無タッちゃんは気付かない方がよかったと一瞬思った。もちろんすぐに、南のそんな認識は南を思ってくれているタッちゃんに失礼だと思いなおしたけど。だから鋼球をグローブに隠したときにはすでに切り替え、ボールのゆくえを追おうと思った。一球目のすっぽ抜けの後で南を一瞥したあとは、内角真ん中のストレートでワンストライクワンボール。バッターの腰を引かせたあとはコースはど真ん中でも少し低めで、目算を狂わすことに成功する。バッターがホームベース寄りにかまえた四球目は一番打ちにくいはずの内角高め。孝太郎くんのリードを信頼して、タッちゃんは連続8三振目をとったのです。

 でも次の須見工の最終バッターは、孝太郎くんのリードが効かない、今の言葉でいえばまさにラスボス。当時の須見工、いや記録と実力からいえば今でも高校最強の四番打者、新田明男だった。他校からの応援や記者やカメラマンが見守る中、今や伝説になってるタッちゃんと新田くんの対決が始まる。もうタッちゃんはベンチに目を向けない。ひさしに隠れて表情はあまりうかがえないけど、口元が引き締まってることは確認できた。いい加減が地のタッちゃんだけど、新田くんのポーカーフェイスに引きずられたと後で証言してた。

 だからか一球目の見逃しのストライクの後、二球目をフェンス越えの大ファウルされてしまう。タッちゃんはこのとき思いなおしたらしい。俺のライバルは上杉和也だと。あわやの打球を見送るあいだベンチでの南との会話を反芻し、ただ孝太郎のミットだけを意識したと言った。

 そんな気迫に新田くんが打てるはずもなく、空振りの三振を喫したのです。一塁側のベンチからは新田くんの挙動は丸見えだった筈だけど、南はすぐにタッちゃんの方を向いた。そして驚いたことに、左に選手の打順、右に各回のスコアが掲示される甲子園のバックスクリーンを幻視したのです。すぐにタッちゃんに目を向けなおすと、素直な喜びの表情を南に向けてくれてた。


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大塩高志
大塩高志
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