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「あ、南ちゃん。一年生の明石と小野が退部だって」
 これで何人目だっけ。
「大丈夫なのこのままで。監督が復帰するまで誰もいなくなっちゃうじゃない」
 タッちゃんの評判、特に昨年秋の須見工との練習試合がインターネットがない当時でもちょっとした騒ぎになって、野球部始まって以来の新入部員数だった。だから少しでも残ってくれれば甲子園に行くためにには、いいという思いも正直あった。だから南の杞憂は野球部に入れてくれた親御さんへの申し訳なさをごまかすためのもの。
「あまり期待しないほうがいいぞ。あのバカ監督の復帰なんか」
「やめてよ、そんなこと言ったらいつまでたっても野球部のマネージャーにもどれないじゃない」
 柏葉監督代行の元で数日たち、すでに監督代行がいることが南が野球部のマネージャーをできないことの必要十分条件になってた。
「大丈夫だよ、だれも南ちゃんがやめたなんて思ってないから」
 実際、自分からは退部届を出さなかったっけ。そしてずいぶん後になってわかったけど、野球部のみんなのお陰で籍が抜けることはなかったみたい。でも、
「本当にいったいなんなのよ、あの監督代行」
 学校では南たちのことを知ってるかもしれないという憶測を口に出来なかったから、正体を知りたいという思いを口にしたのです。しかし後日、監督代行は意外な横槍で想定外の展開を見せた。

 私、浅倉南が目撃したのは竹刀で顔面を打たれる西村くんだった。新田くんとともにいずれ夏の予選で当たるはずの勢南高校の高校のエース、西村勇――。南がまた性懲りもなく新体操部をちょっと抜け出し、野球部を偵察しに行った結果がこれ。もちろん南は一目散に飛び出し、羽交い絞めで制止しようとした。
 そしたらすぐに暴力をやめてくれ、西村くんを心配することができたのです。
「大丈夫、西村くん?」
「まて、こら…」
 そこにあった西村くんの表情が監督代行の隠している、生の感情だったと今にしてわかる。
「そうかい、あんたが噂の代理監督か」
 もちろん、察するべきだった。練習試合とはいえ須見工を9連続三振に打ち取った上杉達也率いる明青が、今度はどんな策で甲子園を目指そうとしているのか、東東京地区の強豪校が何がなんでも知りたかったということに。
「なにを考えてんだろね、まったく。ほれ血だよ」
 南は当然察しがついた。でも男同士のケンカなら、見守るしかない。
「明青学園野球部監督が他校生徒――それもライバル校のエースに暴力を振るってケガを負わせた」
 当然その次の台詞は、
「予選大会出場停止はまちがいないな」
「ちょっと西村くん…」
 それでも私は西村くんの正論をボケにしたかった。
「高校野球連盟に訴えてやる!」
 泣く子も黙る高野連。一年間の出場停止はまちがいない。
「それはいい手だ。明青に勝つ自信がないのなら、そうすることだ」
 今度は監督代行の台詞だ。素直に読み取れば今の明青、それも上杉達也、タッちゃんのピッチングを認めることになる。でもそう気づいたのは家で日記をつけてる時で、そのときは西村くんの歩調にあわせて傷の手当てをしていただけで。
「おれをだれだと思ってんだ、勢南の西村勇だぜ!」
 すぐそばの大声、南の鼓膜に響くひびく。


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大塩高志
大塩高志
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