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気をとり直して素振りしてるタッちゃんを見ると、また監督代行がタッちゃんのバットを止めてる。
「そのタイミングだぞ」
「ウソをつくな、ウソを…」
「モタモタすんなァ!」
タッちゃんの怒りなんて掻き消える。
「さっさとバッターボックスへ立て!」
もっとも西村くん自身が気合を入れるためと容易くわかる。監督への怒りをすぐ上杉達也に転化したみたいで、ならば勝負は早いほどいい。それに西村くん自身、昨年夏の一塁に歩かされての勝利に納得してない。この勝負が夏の予選のための絶好の前哨戦になるはずだった。
「去年より一段とキレが良くなったぞ、あいつのカーブ」
「わかってるさ」
野球部のみんなの声援のなか、うちのバッテリーが言葉をかわしてた。南が、
「たのむわよォ、タッちゃん!」
と叫んだ直前のこと。ろくにタッちゃんの表情を見なかったけど、孝太郎くんによると極めてまじめな目つきだったらしい。
「たのむぞォ上杉! 南ちゃんをとりもどせ!」
「やかましい! ヘボ野球部のマネージャーなんかにはもったいないぜ」
西村くんもよく言う!
「南ちゃんに似合うのは、新体操のレオタードだ!」
そんな余裕のセリフを吐いた一球目、タッちゃんの打ったライナーは外野フェンスに派手な音を立てた! レフト線を3メートル外れたけど、十分修正できる長さ。
「くそォ、ひっぱり過ぎたか」
「しかし、真っ芯だったぜ」
後で聞いた孝太郎くんの誉め言葉に対し、そのとき力負けしないタッちゃんの身体に南は驚いてた。それも西村くんの勢南との二回戦で、初めて南に悔し涙を見せてくれた以来のがんばりの賜物。タッちゃんを遠くに見る錯覚を、南は初めて体験したのです。もっとも一瞬後は、
「その調子よ、タッちゃん」
と興奮してたけど。
「先輩!」
――由加さんの声?
「あぶないですよ、ヘルメットつけないと」
「バカやろォ、だれが投げてると思ってんだ! この俺がコントロールミスなんかするか!」
「もしもってことがあるでしょう。予選のまえに大事なうちのエースがケガでもされたら大変ですからね」
両方の言い分、どちらももっともと思ってた。
「はい」
「ども」
「なんでもいいから早くしろい!」
「えらいえらい。よく気が付いたわね」
だから南も素直にほめたつもりだったのです。
「マネージャーとして当然のことです」
新田さんも成長したんだ。
「わたしは先輩が注意してくれると思ったから、遠慮していたんですけどね」
さっきの言葉、取り消していいかな? [3991touch.txt]
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2017年11月13日
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