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「な…」
タッちゃんの証言によれば吉田くんは唖然としていたようだけど、ピッチャータッちゃんを見たかった南には関係なかった。
「よしがんばれ、タッちゃん!」
笑顔で送り出したのです。しかし終わってから思いついたけど、そんな監督の采配を好投を続けていると自負する吉田くんが認めるはずがなかった。
「監督どうしてなんですか、五回まで0点。まともに打たれたヒットなんかないでしょう!」
「ああすごいぞ、よくやった。りっぱりっぱ」
「だったらなんで交代なんですか。おかしいじゃないですか、そんなの!」
今までは対抗心は露骨でも実績を積み上げることで認められたいという態度だったはず。吉田くんの野心がこんなに激しいとは、南も新鮮な驚きだった。
「こらこら。最初からきめてたんだよ吉田。おまえがどんないいピッチングをしても打線二まわりまでと」
――え? 今度は南が驚く番だった。
「須見工は二年まえから一度も完封負けがないんだよ。それも後半になればなるほど得点率が高い! 異常なくらいに高いんだ!」
二年まえ、つまり新田くんが入ってから。
「だからって」
「――そう、だからって上杉にかえて打たれるかもしれない」
まだ終わらなかったけど結局は吉田くんはライド行く。耳を傾ける必要はなかった。南は悠々と投球練習するタッちゃんを見る。カッちゃんと違って感情を表に出さないけど一球一球の剛速球で気合が入ってると分かる。受ける孝太郎くんに目を向けるとキャッチャーマスクを防止の上に被せてる。南の偏見の入った眼には、晴れやかな表情に見えたっけ。
「わかったらさっさと守備につけ!」
南の視界に吉田くんが映った。ちょっと小走りなのは多分、自分の恥を全校生徒に晒してしまったからだった。好対照に観客がどよめくほど孝太郎くんのミットに狙い通りに投げるタッちゃん。終わってしばらく後に思い返し、世間は残酷と気付いた出来事。ふと原田くんと新田くんの妹さんがいるネット越しを見ると、西村くんもいる。原田くんの証言によると四回裏の途中らしいけど、全く気付かなかった。
試合は六回の表、須見工の攻撃。ベンチで横から見るのとバッターボックスで体験するのは、全く違う。18メートル先のピッチャーの気迫、幻聴のはずのボールが風を切る音、さらにミットに収まる轟音。すべてがバットを構える人間を気弱にさせるのに十分。まして今日の須見工打線は変化球主体でコントロール重視の吉田くんに合わせてきた。気合十分のタッちゃんのストレートに合わせられるはずがない。
一番からの好打順にもかかわらず一番は見逃しの三振。二番は三球目を振ったけどわずかに低いコースで空振りの三振。ようやく当たった三番バッターは完全にタッちゃんの急速に押されてファーストの丸山くんがファウルグラウンドで捕球してくれた。現金な南はベンチではしゃいでいたっけ。
でも新田くんだけは違うと思った。昨年からの快進撃は新田明男が最大の理由と推測できた南は、もう一人のカッちゃんを新田くんに見たのです。そう、今の須見工にカッちゃんが交通事故に遭わなかった明青学園を幻視したのです。それに吉田くんに対しては新田くんは本気を出していなかった。タッちゃんにカッちゃんの役割を託した新田くんだ。ベンチに帰ってくるみんなを見ながら、南は覚悟をしておくことにした。 [3926touch.txt]
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