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それからの「柏葉英二郎クエスト」は、実質暗礁に乗り上げた。学校の図書館やタッちゃんが新田くんと出会った市の図書館で新聞の縮刷版に目を通したけど「柏葉」の名前はなかった。大きい図書館で探すことも考えたけど国会図書館は手続きが面倒そうだったし、大矢壮一文庫は存在を知らなかった。それに南も新体操に本気にならなければと気づいた出来事があったので、男同士の問題として鬼監督と野球部のことはタッちゃんに任せることにした。
だから野球部も南の新体操も順調なら予選大会前の合宿まで省いても良かったけど、南さえ予期しなかった女の子のターンになった。新田明男くんの二つ下の妹で、新田くんの予告通りにわが明青学園高等部に入学した新田由加さん。
「あ、タッちゃん。週番のくせにどこ行ってたのよ」
三年生は最上階の四階なのに階段を下りて来たタッちゃんを不思議とも思わなかった南、少し苛立っていたと思う。
「次の授業のしたくがあるんだから、早く白井先生のとこ行って!」
「へい委員長」
ボケもツッコミもない単なる掛け合いコント。でも小さくなる足音がない。タッちゃんはこっち見てた。両手を双眼鏡にして。
「なにやつてんの? 早く行きなさい!」
やっと漫才になった。そして一人になった南はやっと冷静になれ、屋上、双眼鏡の形から、覗きをしていた可能性に気付いたっけ。もっともその時間が新田さんのクラスの水泳の授業だったと知ったのは、かなり後だったけど。でも新田さんが不良グループに囲まれたことは、次の日に私の耳にも入った。『タッチ』の本筋からはだいぶ逸れるので名前の明示は避けるけど、本人から直接聞いたことは記しとく。問題は新体操部で模範演技をした後のひととき。
「こらこら一年生、おまえらなにしに新体操部に来たんだ。ここは浅倉南のファンクラブじゃねえんだぞ」
べらんめえ調は南を引き込んだ文子。
「一生懸命練習して自分が第二、第三の浅倉南になるんだ。そして、この新体操部が団体戦でもインターハイに出場できるよう、かんばらねばいかんのだ。わかったか!」
「はーい」
「声が小さい!」
「はーい!」
最後は大きい声の合唱になった。春から繰り返された掛け合いだれど、南は後輩を指導する余裕はなかった。でもここまではいい。次に浅倉南のいやな部分が出るので、次回に先送りにします。
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