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字幕の映写 「ベルリン 1916.3.20」
左にボルン、右にアインシュタイン、テーブルを挟んで向かい合って座っている。ボルン、書類を捲りながら読み、アインシュタイン、腰を浅くちょっとふんぞり返って座っている。
ボルン、書類をアインシュタインに差し出す。
ボルン 恐れ入ったと言いたいところだが。
アインシュタイン、茶目っ気の顔で書類を受け取る。
アインシュタイン 何か不満かね、ワトソン君。
ボルン いやアイ…。
ボルン、咳払い。
ボルン ホームズ、この相対論の体系的な論文、著者のアインシュタインはいつもの『物理学年報』に投稿するそうだが。
アインシュタイン たまには別の雑誌でもと言うのかい?
ボルン いや、それはいいのだ。アインシュタイン君にも義理はあるだろう。ただ、アインシュタイン君と編集長のプランク君は毎日会っているのだろう?
アインシュタイン 同じ大学の教授だからね。専門分野も同じだから、いつも議論をしているみたいだ。
ボルン つまり私が言いたいのは、いちいち郵便で編集部に送るのは我が国の郵便行政の利に加担するだけだということだ。ホームズ!
アインシュタイン ワトソン君、そんなことか。大学で手渡しすれば済む話というのだね。実に合理的だ。科学的手法の鑑でもある。しかしワトソン君、規則というのは破るためにあるという定義もあるが、破ったことが既成事実になることも忘れてはならないよ。
ボルン ホームズ、もう少し詳しく話してくれないか。
アインシュタイン、自分の論文を掲げる。
アインシュタイン 今日アインシュタイン教授がこの論文をプランク教授に手渡ししたら、その時から手渡しがアインシュタイン教授の特権になる。
ボルン その通り。
アインシュタイン また編集長のプランク教授はベルリン大学の教授だから、手渡しの恩恵に与るため、『物理学年報』の投稿者はベルリン大学を目指す構図ができる。
ボルン そういうことになるな、ホームズ。
アインシュタイン その結果ドイツの科学は発展すると思うかい? 我われイギリス人の主観でなくドイツ人の身になって考えよう、ワトソン君。
少しの間。
ボルン、頭を下げる。
ボルン 参りました、アインシュタイン教授。
アインシュタイン 私もそうしたい思いはあるがね、ボルン博士。しかし一九一四年の日食観測の失敗以降私も政治を勉強して、特に上に立つ者は規則を尊守すべきと分かったよ。今の場合なら『物理学年報』は投稿論文だけを受け付けることによって、論文の質が頼れるということだよ。
ボルン 確かにそうです、アインシュタイン教授。
アインシュタイン それにウィーンから度々送ってくれるシュレーディンガー博士の例もある。プランク教授は私の再来を期待しているが、私は正直判断がつかない。ただ、
ボルン ただ?
アインシュタイン 有力な研究者であることは確かだ。そんな人間をプランク教授は見逃したくないのだ。
ボルン 納得しました。
アインシュタイン、笑顔で頷く。
舞台、暗転。 [4042einstein.txt]
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2018年01月09日
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