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三月十三日
ハイゼンベルク
 ミュンヘンのカップの反乱のとき、ホーエンツォーラン街のハイゼンベルグの家の上の階に住んでいたレビという名のユダヤ人一家の主人が、父のアウグストに訪ねてきた。用件は反ユダヤの嵐が過ぎ去るまで、宝石の入った袋を一つ預かってほしいということ。(24ページ)
 後日袋はレビに返され、結局、中に入っているものを知らずじまい。(24ページ〜25ページ)
『ハイゼンベルクの追憶』より


[3868ej20 0313 nuki.txt]

 「僕もおかしいとは思うが、ホックと留め金を認めないならどんな経験事実でさし絵を書かせたか、第一に知らなくてはならない。今日の自然科学は経験事実から出発していて、勝手な哲学的な思弁なんかではないからね。化学結合では構成部分はきまった重量比で現われることを、化学者が発見した。注目に値することだ。原子の存在を信ずるとして、一つの炭素原子がいつでも二つの炭素原子を結びつける説明は、ふだん自然界でお目にかかる力ではうまくいかないからだ。もし原子の間に働く力があれば、三つの原子と結びつくことがないのだろうか?」

 「きっと三つのものと結びつくことは空間的な配置から不可能な形をしているのだろう」。

 「たしかにあり得そうに思えるが、君が仮定するのなら行きつくところもやっぱりホックと留金ということだよ」

 「わかった。君は原子は自然法則に基づいて、経験と合うような結合の仕方をも支配する型をもつはずだと言ったね。だがわれわれ二人とも、さし絵を描いた人も知らないのだ。
 本にも言及されているが、化学者は“原子価”という概念を見つけだしたのだ。だけど単なる言葉か、役立つような概念であるかはしらべてみなければならない」。

 「たぶん単なる言葉というよりは、それ以上の意味をもつと思うよ。われわれが今手に入れられる以上の物が、原子価についての経験的な知識のうらにかくされているにちがいない」。

 ロバートが対話に加わった。黙っていたが明らかに話歩を聞きながら、れわれのそばを歩いていた。黒っぽい豊かな髪で細長いがたくましい顔をしており、むっつりしているように見える。ヴァンダールングにつきもののむだ話にはめったに加わらなかった。しかし夜テントで朗読するときとか、食事の前に詩について話すときに、ひっぱり出すことになった。ロバートほどにドイツの詩を知っているものはいなかったし、哲学的な著作でもかなうものはいなかった。話し方と、かもし出す落ち着いた雰囲気は、聞く者を傾聴させずにはかなかった。ロバートは、われわれの対話に不満足だったのだろう。

 「君たち自然科学の信奉者どもはいつも経験事実ということをひっぱり出し、真理を手に入れたと信じてしまう。しかし君たちの言っていることは自分たちの考えに基づいており、直接に知っているのは考えだけなのだ。しかし考えというものは物体にはない。物体を直接に知覚することはできない。だからまず物体を表象に変化させた後で考えなければならない。紙に描かれた正方形を見たとき網膜にも脳の神経細胞の中にも、正方形の形は生じない。にもかかわらず感覚的な印象を表象として整理し、ひとつのまとまった〝意味のある〟像に変えているにちがいない。だから表象に対する描像がどこからきているのか、いかにして概念的に把握され、物体に対してどのような関係にあるのかということを、確かめてみなければならない。明らかに表象が経験より先にあり、表彰こそは経験に対する前提になっているのだからね」。

 「それでも、君が知覚の客体から分離しようとする表象というものは、経験からくるのではないか。感覚時な印象の似通うなグループが繰り返すとか、間隔和紙洋子伊達たるものの間の関連を通して、間接的に生まれてくるのではないのか?」

 「全然真実とも思えないし、とうてい納得できない。マルブランシュは表象の形成について三つの可能性を類別した。一つは君が述べた、対象が感覚的な印象を通して人間の魂の中に生じせしめるというものだが、感覚的な印象は物体とも、対応させられた表象とも本質的に違った性格であるという理由で、否定した。第二は人間の魂は初めから表象というものを持っている、少なくとも自分自身で作り出す能力を所有しているというものだ。マルブランシュ自身が支持した第三のものは、人間の魂は神の摂理に参画するものだとする。魂は神と結びついているので雑多な印象を秩序づけ、概念的に整理し得るような表象能力や描像や理念をも神によって与えられると考える」。

 クルトは全く不満であった。

 「君たち哲学者はいつも神学と手を取りたがる。しかし僕は妥協できない。今君が提起した維持用、魂がいかに表象を得るかを知りたい。ただしあの世ではなくこの世でね。もし単純に経験だけから生ずることを認めたくないのなら、どうやって初めから人の魂に付与されているかを説明しなければならない」

 「そうじゃない」。とロバートは答えた。

 「僕はそんなことは言っていない。なぜなら、経験の結果が遺伝されるものかはたいへん疑わしい。マルブランシュが言わんとするところは神学なしでもうまく表現できる。世界における目に見えるような秩序を、または自然法則を、支配するような秩序だった傾向があり、人間の魂の生成の際にも作用するものである。秩序だった傾向は物に表象を対応させ、概念の構成を可能にする。存在している構造はいま言った傾向が生んだものであり、こうぞうはわれわれが考察したとき、また構造を思考の中で固定させたときだけ、物と表象に分離して現われてくるように見える。すべての表象は経験に基づくという君たちの見解と、有機体の外界に対する関係を通して、発展の歴史の中で表象を構成する能力ができ上がってきたのであろうというマルブランシュの命題とは共通したものを持っている。同時にマルブランシュは、結晶の形成とか生命の生成の際のような、原因と作用という概念ではとらえられにない、より高級な構造が作用する問題を強調している。経験が表象より先にあったかという質問は、古くから知られている卵が先かにわとりが先かという質問と同列のものでしかあり得ない。

 それはそうとして、原子についての話のじゃまはしたくない。経験について述べることに警告したかっただけだ。なぜなら、直接的には観測できない原子は物体ではなく、表象と物に分離することが意味を持たないような、基本的な構造に属しているのかもしれないのだから。通俗的な著作でお目にかかる絵についてもだ。理解を容易に役立てるべき絵は、わかりにくくするだけだ。〝原子の型〟を空間的な形でだけなしに、僕が使った〝構造〟という言葉とあまりちがわない意味にとっときだけ、部分的に認めることができるよ」。
「部分と全体」より


[3863ej20 haru nuki.txt]


ハイゼンベルク
 おそらく一九二〇年の春、年配の世代は手綱を失ない、若い人々は新しい進路を求め立ち上がろうとしていた。ある晴れた春の日、十人から二十人くらいの仲間と歩いていた。大部分は私より若く、記憶が正しければシュターンベルガー湖の西岸の丘陵地帯をヴァンダールングした。時おり視界が開け、輝くばかりの新緑のブナの茂みから左下方に横たわる湖が、ほとんど背後の山々に達しているように見えた。私自身の学問的な成長に重要な原子の世界についての最初の対話が行なわれたことは、いま考えると不思議だった。おそらく平和な時代の若者たちへの保護はほとんど失われた代わりにある程度自由に考えられる潮流が生まれ、十分な基礎もできていない場合でも自分の判断を信用するようになったのである。

 私は物理の教科書にある、完全に不合理に思われるさし絵について話した。二種類の均質な元素が結びついて別の元素になるという化学の基礎過程に関するものだった。直感的にわかりやすいように原子のグループが図示してあり、分子の中での原子の結びつき方をホックと留め金で表していたが、私には全く腑に落ちなかった。クルトは次のように答えた。
「部分と全体」より


[3862ej20 haru nuki.txt]

春学期の初め
ドイツ人、クライン、オストロフスキー
 春学期の初めに、ドイツを先頭とした中枢諸国は大攻勢に移った。ドイツ人にとって、勝利は間近かにあるように思われた。
 しばらく前に、クラインの友人は研究成果の全集を編纂することをすすめた。初めは、若い数学者で現代的視点に通じている人の助力がない限りできないという理由で、断った。しかし、オストロフスキーは、現代的視点に通じている若い学者であると思われたので、編纂の作業にとりかかった。

 クラインは強い直観力にめぐまれていた。(中略)しかし真実だと確信した定理に論理的に完璧な証明を与えることは、面倒で我慢できないことであった。
 クラインの性質によってオストロフスキーの仕事は極めて難しいものになった。「(前略)彼と仕事をしていて不愉快な思いをしたことはありませんが、彼にとっては大変自制心のいることだったようです」

 「(前略)年少の時から問題であったに違いなく……問題の困難がどこにあるかについて、非常に若い時から理解していたようです。ヒルベルトはミンコフスキーの親友で、ミンコフスキーは学生の時にパリ・アカデミーの賞を得たスターでした! ミンコフスキーは尊敬されたに違いありません。しかしケーニヒスベルクのような小さな大学では、きらった人も多かったはずです。ユダヤ系であることは明らかだったし、ドイツ生まれでさえなかった。初めて、ヒルベルトは優れた個人が、より劣った人々の間に生活しなければならない状況に関して起る問題を認めたことと思います。ほとんどの場合、時すでに遅しということになるように思います。問題の存在を認めることができなかったり、ある場合には優位性はコンプレックスを乗りこえるために不可欠であったりします。ヒルベルトは、非常にうまく回避したようです」
『ヒルベルト――現代数学の巨峰』より


[3859ej18 haru gakki hajime nuki.txt]

三月三日
アインシュタイン
 暇さえあればいつも、相対論の立場から量子論的な問題を検討。理論が連続性を放棄して成り立つとは思えません。しかし量子的構造を、過剰決定という立場で微分方程式で解決するという私の持論は、どうしても成功していません。
『アインシュタインボルン往復書簡集』より


[3856ej20 0303 nuki.txt]


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