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二月九日
ヒルベルト、オストロフスキー、クライン
 一九一八年初頭、クレムリンで新たな顔ぶれが争っていた時、ドイツはウクライナと単独講和を結んだ。マルブルグで敵国市民として囚われの身にあった若いウクライナ人のアレクサンダー・オストロフスキーがこられることになった。オストロフスキーはとどめられけていた期間に、ヒルベルトとクラインの業績を徹底的に研究した。着いて、有名な数学者を慣例通りに訪問した――「権利であるとともに義務」であった。
 クラインは親しみ深くむかえた。「いろいろなことについて私と話し、私がクラインの仕事についてよく知っていることに大変驚いていました」。ヒルベルトは礼儀正しかったが、冷たかった。「初対面の人をあまり信用しなかったのでしょう」
『ヒルベルト――現代数学の巨峰』より


[3831ej18 0209 nuki.txt]


 長文の手紙の感謝。ラウエはこちらに来たいのです。しばらく前のことですが、民間から寄付があって、ラウエはベルリンで、教育義務のない一種の研究職につけそうになったことがあります。
 その時は講義が嫌だからベルリン行の工作をしているのだと言っていました。
 ところが実現しないとみると、実際にだめらしいのですが、今度はおたくの主人とのポストの交換を考えついたのです。してみますと第一の目的はベルリン行で、動機は功名心(夫人の?)ということになります。プランクには分っていますが、役所の方では多分知らないでしょう。まだプランクと話し合っていません。
 私の読みでは、ラウエはプランクの後釜をねらっています。情けない男!
 病的な狡猾さです。わずらわしい人間関係のない、落ち着いた生活を望むのが彼としても自然ですのに、正反対の目標に向かってあがいています。この点で、ぜひかたつむりを書いたアンデルセン童話をお読み下さい。見事な小品です。
 ラウエがうまく行くかは、客観的に言って、次の二つの条件いかんです。
 一、ご主人のポストでラウエが十分な俸給をもらえるかどうか。
 二、ご主人にポストを交換する意思があるかどうか。
 第一の条件が満たされると仮定しますと、あなた方の同意が問題になります。
 言うまでもなく、あなた方が悩んでおられる問題です。私の考えを申しますと、ぜひともご承諾のことです。私がどれほどあなた方に好意を持ち、――この荒廃の地に友として、また主義を同じくする者として、あなた方がおられることいられるこんな理想的なポストを、断わる手はありません。ここよりひろく自由な発動の場がありますし、ご主人が力を発揮なさる機会も多いと思います。
 しかしプランクがやめた場合を考えてごらんなさい。ご主人がプランクの後任になれるとは限っていません。他の人がなったら、不愉快なことが多いかも知れないでしょう。万止むを得ないのでもなければ、危ない橋は渡らないことです。
 おん身を大切にし、私の例をもって他山の石となしてください。私の場合、昇進の道はありません。お子さまたちと、近々お戻りになるよう願っている関白亭主殿によろしく」
『アインシュタインボルン往復書簡集』より


[3829ej18 0208 nuki.txt]

オッペンハイマー、タム、ディラック、パウリ
 詩を作ったのは空孔理論に疑いを抱いていた、研究所の物理学者の一人だったのだろう。まともに取り合ったのはタムやオッペンハイマーら少数の理論物理学者だったが、欠陥があるとすぐ見抜いた。一九三〇年二月オッペンハイマーは空孔理論にしたがえば原子内の電子は即座に負のエネルギーの海に落ち、原子の平均寿命は一秒の一〇億分の一になると示し、すぐあとにタムとディラック自身も独自に同じ結論に達した。パウリは「パウリの第二の法則」と呼ばれるようになる考えを提案した。「物理学者が新しい理論を提案するときは、自分の体を作っている原子に当てはめねばならない」。ディラックが原則の最初の犠牲者になるというわけだった。
「量子の海、ディラックの深淵」より



[3824ej30 02xx nuki.txt]



二月
ディラック
おお。われら電子の悲しき訴えに耳を傾けたまえ
忌々しい量子的な見方の支配からわれらを解放したまえとの叫びに
(中略)
古典的方程式が行けと命ずるとおりにわれらが進んでいたころは。
われらが原子のなかで振動すれば、光線が放たれた。
そしてわれらは一切の構造を持たなかった――質量、電荷、速度があっただけだった。
われらは自分が粒子なのか、それともゼリーのような関数ファイなのか、
はたまた波なのか、それどころかほんとうに現実存在なのか、あるいは(後略)。
われらは陽子――エーテルに開いた孔――なのだという、ディラックによれば。
作者不詳

 上記の匿名の詩は一九三〇年ごろ、キャベンディッシュ研究所の掲示板に貼られていた。電子に捧げる歌で、頭の固い理論物理学者でなければ作者の気持ちに共感できたに違いない。一〇年前には原子物理学は常識の範囲内にあったが、二五〇年にわたって君臨してきた法則は、時代遅れになってしまったのだ。ディラック自身はスウィフトが『ガリヴァー旅行記』で展開した、「自然に起こっている物事を、比率を守ったままで拡大したり縮小しても、気づかないだろう」。という考え方は、間違っていると指摘することで強調した。原子の領域では、物事はまったく違っていたのである。理論物理学者は電子を視覚的に表現する企てを、間違っていると退けるようになった。電子は振舞いさえ予測不可能で、物理学者は自然界の賭博台についたディーラーのように確率を計算していた。しかも計算には実在するとは思われない波を使うのである。さらにディラックは正のエネルギーよりも観察すらできない負のエネルギーを持った電子のほうがたくさん存在すると、主張したのだった。

(つづき)
オッペンハイマー、タム、ディラック、パウリ
 詩を作ったのは空孔理論に疑いを抱いていた、研究所の物理学者の一人だったのだろう。まともに取り合ったのはタムやオッペンハイマーら少数の理論物理学者だったが、欠陥があるとすぐ見抜いた。一九三〇年二月オッペンハイマーは空孔理論にしたがえば原子内の電子は即座に負のエネルギーの海に落ち、原子の平均寿命は一秒の一〇億分の一になると示し、すぐあとにタムとディラック自身も独自に同じ結論に達した。パウリは「パウリの第二の法則」と呼ばれるようになる考えを提案した。「物理学者が新しい理論を提案するときは、自分の体を作っている原子に当てはめねばならない」。ディラックが原則の最初の犠牲者になるというわけだった。
「量子の海、ディラックの深淵」より


[3821ej18 02xx nuki.txt]

シュタウティンガー、ハーバー
 ヒンデンブルクやルーテンドルフには黙殺されたが、ハーバーとは旧知であるシュタウティンガーは一九一七年、スイス国内にある赤十字に、残酷な毒ガス戦を禁止する布告を出すべきであると訴えたのである。
国際赤十字社は一九一八年二月、毒ガスの使用をやめるように両陣営に訴えたが、効果はなかった。
 ただ、ハーバーら化学兵器チームにも悲観的観測が漂っていた。アメリカ軍も、大規模な化学兵器部隊を用意していたのである。ハーバーは西部戦線における攻防では、連合国軍の毒ガス攻撃がドイツ軍の防御を上回るであろうからと、防毒マスクの徹底と塹壕内の換気装置の改善に奔走した。
『毒ガス開発の父ハーバー 愛国心を裏切られた科学者』より

ハーバー、ハーン、ソディ
 革命的な興奮が多くの大衆をつかみ、ドイツでも君主制の転落が導かれたが、科学の代表者の多くは共鳴せずにいた。落着き払った姿勢は、ハーンの言葉にも反映していた。「1918年2月にハーバーは、戦争が勝利に終わる見込みはないと私たちに言っていた。しかし私たちは努力して、たくさんのガス攻撃の準備をした…」たしかにハーンは最初、卑劣な化学兵器による戦争に対して異論を持っていた。「しかし枢密顧問官ハーバーが、すべてが自らの立場を正当化しているかを、自分の言葉で私に説明し終えた後では、私は考えを転換させ、確信を持ってやり続けた。…強い有毒物質と恒常的に付き合うようになって、前線に配置することについて、私たちはためらいを抱かないようになった。」

 のちに筋金入りの人文主義的平和主義者になったハーンではあるが、当時は科学者の社会的責任の問題に近づくことはなかった。
 最も矛盾していたのは、物理化学者フリッツ・ハーバーの役割のように見える。空気中の窒素をアンモニアに変えて、化学肥料を生産するという発見で、飢えを克服する手段を人類にもたらした。他方で毒ガス戦への参加は、知識や発見を人類の幸福のために使うという科学者のエートスと調和するものではない。しかしハーバーひとりに毒ガス戦の責任を負わせるのは間違っているだろう。真の犯罪者たちは、新しい化学の戦争物資によって利益を追求し、力の政治目標の到達をガス兵器で望んだ一団から、探し求められるべきなのだ。

 第一次世界大戦は、ソディの進歩への確信にショックを与えた。原子の不思議な力を借りて、地上の楽園を夢見ていたが、いまや原子エネルギーの使用には、別の応用の道があることを理解し、狼狽したことを告白しなければならなかった。
『オットー・ハーン―科学者の義務と責任とは』より



[3820ej18 02xx nuki.txt]



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