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星野和之の『満更でもない』
星野和之のエッセイです。お仕事のご依頼、ご相談はbks_hoshino@yahoo.co.jpにメールください。
新潟の冬は、長い。

寒い時季というのは淋しさを増長させてしまう。
気心の知れた男3人で博多料理店でもつ鍋に舌鼓をうち酒を酌み交わすも、女性がいない事でどこか空虚感が漂ってしまう。

「キャバクラでも行くか」

1人がそう呟いた。誰からも異論は出なかった。皆同じ気持ちだったのだ。

新潟駅前の案内所に入り、安くていいお店があるか聞くと
「任せてください!お一人様60分3000円とTAX20%でご案内します!お客さんは焼酎とウィスキー飲み放題で女の子のドリンクは1杯1000円で!」
それならばと案内された店は案内所のすぐそばの階段を登ったところにあり、こじんまりとした店内に我々の他にも2組の客が座っていた。

座席に着くと
「お待たせしましたー!」
という声と共に3人の女性が着席した。
僕の隣に座ったのはシンプルに言って不美人。月並みに年齢を聞くと
「いくつに見える?」
と言ってきたので、正直どうでもいいと思いながらも、見て思った通り「28歳!」と越後製菓のCMの勢いで答えると

「21歳なんだけど…」
と言われしばし時が止まった。

飲み物をどうするか聞かれたのでウィスキーのソーダ割りを頼むと

「ソーダは有料なんだよね。1本2000円。」

拝啓母上様、キャバクラという場所は500mlのペットボトルに入った炭酸水が1本2000円もするのですね。
まるで水のなくなった世紀末のような強気の価格設定に少し驚いてしまったが文句を言っても仕方ない。そして女性達が口々に
「ドリンクいただいていいですか?」
と言ってきた。1杯のドリンクも許せないような男ではない。我々がOKすると

「お願いします!キティください」

女性達が全員キティを頼んだ。キティとは赤ワインをジンジャエールを割ったキャバ嬢に人気のドリンクだ。
そして2杯目以降は我々の了承を取るわけでもなく
「おかわりください!」
とテレビチャンピオンの大食い大会ばりに頼むのであった。

特に内容のない会話を繰り返し30分ほど経った頃だろうか。
「ねぇ、私まだここにいてもいい?」
と不美人が言ってきた。
キャバクラのシステムとして席についた女性は一定時間が経つとスタッフに呼ばれて他のテーブルにつく。なので女性を気に入った場合は場内指名といって指名料を払うことでそのまま女性を自分のテーブルについてもらうことができるのである。
ここまでの文脈で僕が不美人を気に入っていないことは賢明な方ならお分かりであろう。しかし僕以外の2人は場内指名をしていたこともあり、なんとなく断りづらい雰囲気になりつつあった。

「ねぇ、私ここにいてもいい?」

僕が泉谷しげるなら「うるせぇ!ブス!どっかいっちまえ!」と一喝できるのだがNOと言えない僕は諭すように語りかけた。

「例えば僕は芸人をやっているけどイベントに呼んでもらって、次もまた呼んでもらえるかどうかと言うのはその舞台で僕を呼んでよかった、また次も呼びたい と思ってもらえるような仕事ができたかどうかなんだ。正直僕は今君ともっと話したいとは思わない。」

不美人は深刻な顔をして

「そっか。よくわかったよ。じゃあ、いていい?」

全くわかっていなかった。

なんとか不美人に下がってもらい次に来たのは、体に悪そうな海外のお菓子みたいな色の髪の毛をした30代半ばの女性だった。
特段盛り上がる事もなく60分が経ち、勿論延長するはずもなくお会計を出してもらうとボーイが持ってきた紙にはこう書かれていた。


『¥78000-』


???

「キティは1杯3000円なんですよー」

後出しジャンケンである。サッカーのVR判定をリクエストしたいと思った。おかずクラブに「これがお前らの やり方かぁ!」と言ってもらいたかった。

店を出ると隣のキャバクラの客引きが声をかけてきた。僕らは今あったことを話すと

「ここの店そういうので有名ですよ!うちは女性のドリンク込みで5000円!どうですか?」

僕たちはとにかく誰かにすがりたかった。この悪しき出来事を忘れられるような時間を過ごしたかった。僕たちはその店で飲み直すことにした。

席についた女の子達に先程の出来事を話すと
「大変だったね!そのお店私たちも知ってるよ!」
この辺では有名な話なのかと聞いてみると


「うち系列店だから」


「お会計!」
15分で店を出た。

我々は何も言わずそれぞれ1台づつタクシーに乗って帰路についた。
タクシーの運転手さんが話しかけてくる
「明日は雪みたいですよ」
いっそ真っ白な雪がこの悪夢を塗り潰してくれたらいいのに。カーステレオから浜田省吾の『悲しみは雪のように』が聴こえてくる。
タクシーの車窓から見える煌びやかなネオンの光を見て、この1つ1つに様々な物語があるのだと思った。
感傷に浸りたくて少し遠回りをして帰った。次の僕達の物語がハッピーエンドである事を祈って。

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