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「神経衰弱」という、古色蒼然(そうぜん)とした病気が話題になっている。「骨折サッカー事件」で、2場所出場停止などの処分を受けた横綱朝青龍に対して、精神科医が下した診断だ。
▼夏目漱石が、英国留学時代から、死ぬまで同じ病気で苦しんだことはよく知られている。普段は子煩悩だった漱石も、子供たちが「お父さんの病気」と呼んでいた発作が起こると、振る舞いが一変する。
▼長女の筆子をある日突然呼びつけて、長い間にらみつけたことがあった。恐ろしくなって筆子が泣き出すと、いきなり額を押し飛ばしたという。筆子の二女、米オレゴン大学名誉教授の松岡陽子マックレインさんに聞いた話だ。
▼病気の原因については、さまざまな説がある。松岡さんは、顔面のあばたや低い身長から、英国人に抱いた劣等感に触れていた。ともかくロンドンの下宿に引きこもり、洋書を乱読しながら「西洋」や「近代」と格闘したことが、帰国後、数々の名作を生み出す原動力になったことは確かだ。
▼きのうの小紙1面コラム「日本よ」で石原慎太郎氏が指摘しているように、朝青龍の問題も「文明の衝突」のひとつなのかもしれない。横綱の品格などといわれても、強いことがすべてのモンゴルの基準からすれば、納得しがたい面もあろう。日本文化との格闘の末に得た病だとすれば、十分同情に値する。
▼ただ、朝青龍には、「腰の疲労骨折」などと書かれた診断書を提出して、夏巡業を休場し、モンゴルでサッカーに興じた“前科”がある。形成外科医でもあるという医師の診断をそのまま信用するわけにはいかない。万が一、朝青龍が希望する帰国のための方便だとすれば、心の病と必死に闘っている人たちに対してあまりにも失礼である。
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