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今日から毎週木曜日、櫻井よしこ氏の「小泉首相に申す」が産経新聞に掲載されることになった。
小泉自民党は郵政改革を掲げて先の総選挙に圧勝したが。「郵政民営化」は所詮は手段に過ぎず、もっと根源的な日本国のあり方、日本国民の精神のあり方を問えと小泉首相に迫っている。
憲法は日本国のあり方を示し、日本国民の精神的な拠り所となる筈だが、実際には、戦前の日本の歩みを全否定することに始まり、個人の自由と権利を強調し、責任と義務を軽視する風潮を生んだ。家庭や歴史・伝統を軽視することも今日の日本の混乱を招いている。
拉致問題、靖国問題、東シナ海のガス海底資源問題にも触れ、憲法改正と日本のあるべき姿を説く、櫻井女史の小文を一人でも多くの方に読んで頂きたく、触り魔はさわりの部分だけでなく全文をご紹介する。
産経新聞(2005年10月13日付朝刊)より
心の在り様問われよ
櫻井よしこ 小泉首相に申す
総選挙での圧勝以来、小泉純一郎首相は矢継ぎ早に改革案を打ち出しな議員年金廃止、公務員改革、政府系金融機関の整理統合、そして道路特定財源の一般財源化などだ。
議員年金の廃止は改革に当たって、まず自らの既得権益を断ち切るもので好感がもてる。
首相の指示はいずれも必要な改革であり、共鳴する。だが、真に重要な改革は実は他にある。
首相の語る改革はすべて、お金や権益に関する事柄だ。脱落しているのは心である。言い換えれば、なぜ日本は、説明できない不合理なお金の流れや卑しい権益が許され、罷り通る国柄になったのかという疑問である。これはまた、なぜ日本は私益が先行し公益が蔑ろにされる国柄になったのかとの問いであり、世界第二の経済大国にして、国際社会での存在感が斯くも希薄な国になったのはなぜかという問いにもまっすぐにつながっていく。
答えは日本という国家の精神軸に斬り込むことなしには得られない。その代表が憲法である。
現行憲法は、自由と権利を謳いあげつつ、それらを真に価値あるものとなす責任と義務を切り捨てた。国民一人一人を個人として尊い存在だとしつつ、その個人を育んだ家族の役割を否定した。
権利と自由のみで育てられた結果、他者への依存を特徴とする多数の個人が生まれた。その集合体としての日本は、自らの安全と生存を国際社会に依存する国家となった。
そして何がおきたか。
拉致問題を見よ。政府が認めただけでもまだ2桁の人々が囚われている。拉致された確率の高い特定失踪者が別に240名もいる。
首相はしかし現時点で区切りをつけ、日朝国交正常化交渉に入る道を選んだ。拉致は国交正常化交渉のなかで解決するから大丈夫とは言わせない。むしろ、首相には拉致問題に取り組む意欲が欠落していると疑わざるを得ない。これまで拉致問題の提起も、特定失踪者の調査も、首相の側からではなく、専ら家族や民間組織が主導してきた。
国民の生命にかかわる事案に取り組む責務はまさに国家にあるという意識が欠けているのだ。
国家は、国際社会の「公正と信義に信頼し」つつも、公正や信義を裏切る行動を許さない決意とそれを支える剛実な力を持たなければならない。
日本にはその双方が欠落している。それを切り絵のように見せてくれるのが日中関係の現状だ。東シナ海の海底資原問題は言うに及ばす、首相の靖国神社参拝に、なぜ日本側は参拝の理由を日本の文明と歴史をふまえて説明できないできたのか。
日中問題を日中二国間の枠に限定して考える地平からは、問題解決に導く答えは生まれない。日本の歩みを満州事変のはるか以前、日本が開国し世界とまみえることになった時点からとらえてはじめて、日本が直面した試練も見えてくる。日清、日露戦争に勝った日本を、米国かどれほど警戒したか。日露戦争でのロシアの敗北から学んだ米国はパナマ運河の完成を急がせ、自国の海軍力の統合性を保つ体制を作った。その力はやがて日本を叩く力となっていく。
警戒すべき日本に有力な同盟国をもたせてはならないとして、米国は中国と心を通じ、ワシントン海軍軍縮会議で日英同盟の破棄に成功した。
その時点から、1941年11月のハルノート、第二次世界大戦開戦まで、日本は不可逆の道を歩まざるを得なかった。日本はもがき、多くの間違いも犯しただろう。私たちは各々の間違いを見詰めながらも日本が歴史の必然としてくぐり抜けざるをえなかった大潮流をこそ、見なければならない。
その作業をしたときはじめて、先人の懊悩を痛感し、なぜ、首相をはじめ日本人が靖国神社に心して参拝しなければならないかが、納得できるはずだ。またその時、戦前の日本の歩みを全否定する現行憲法を、一日も早く改正することが、どれほど重要な課題であるかも痛感するはずだ。
憲法改正は、日本人の心を見つめなおす作業である。ハンチントンの言う日本一国のみの文明を築き、そのなかでいかに豊かで平和な国家を築いてきたかを、改めて心に刻み直す作業と言ってもよい。その延長線上に、私たちの未来への夢を託すに値する国家の姿を描く作業が憲法改正だ。
郵政民営化などは所詮、手段にすぎない。手段を用いて何を達成したいのか。そのことを私は首相に問いたい。
私がこの国の未来に見たいのは、この国のよき伝統を伝える真っ当な国の姿である。そこへの道は戦後の歴史からの訣別にある。経済に特化し、お金だけを論じてきた戦後60年間から、脱皮するのだ。そのために首相は、いまこそ、日本人の心の在り様を問われよ。
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