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日本国内で中国の今後について検討される場合、テーマは、ほとんど、経済問題である。しかし、共産党を含む中国国内では、「胡錦涛政権が交代する予定の2012年以降、いつまで共産主義体制を維持できるか」が主要のテーマになってきている。かつては、このようなテーマはタブーだったが、言論の自由化と政治経済状況の緊迫化で、実質的な討議を進めざるをえなくなったようだ。共産主義の政治システムが揺らぎ出した主要な原因は2つある。ひとつは、貧富の格差が大きくなり過ぎたこと。他は、共産党内の腐敗である。 沿海の都市部と内陸の農村地域の所得格差の拡大については、約10年前から指摘されてきた。今日、沿海都市部の経済成長率は実質10数%、内陸農村部はせいぜい3〜4%だから、年々、10%近く、格差が拡大しているわけである。しかし、いま、大きな問題となっているのは都市・農村間の格差ではなく、都市部における貧富の格差の拡大だ。たとえば、上海の人口約1700万人のうち約300万人が内陸からの出稼ぎ労働者だが、富有層5%は日本人以上の生活水準で、しかも、所得はますます増えているのに対して、出稼ぎ労働者のうち失業者の生活水準は絶対的に下落しているという。富裕層と極貧層の所得格差は1000倍をはるかに超えているのではないか。 中国の共産主義は経済の市場化の進展とともに大きく変化してきた。しかし、共産主義である以上、優先されるべき政治の大原則は平等である。したがって、この大原則の崩壊状況に対して、国民から「共産党は何をしているのか」「平等の大原則が守れない共産党など信用できない」という批判・不満の声が挙がるのは当然だろう。胡錦涛・温家宝政権は国民の批判・不満を強く意識しており、貧富に格差の拡大防止に全力を挙げている。だが、江沢民政権が放置したために勢いづいてしまった格差拡大の動きを止めるのは容易なことではない。もし、現政権が格差拡大の抑制に失敗したら、共産党は政権を維持できない可能性がある。 いまのところ、国民の間には、「現政権は強い使命感を持って、格差拡大の抑制に懸命に取り組んでいるので、現政権が続く2012年までは、共産党は政権を維持できるだろう」という見方が強い。問題は、再び世代交代が行われる2012年以降である。「現政権が貧富の格差の拡大抑制に失敗し、しかも、優れた新指導者が出ない場合、共産党支配は大動揺に見舞われるだろう」という危機感が共産党員を含む国民の間に着実に広がっている。 最後に、中国共産党の今後に関して、興味ある事実を紹介しよう。胡錦涛・国家主席は副主席在任中、中央党学校校長を兼務していた。当時、彼は有識者を集めて、ポスト共産主義の政治システムについての研究を行わせた。関係者の話では、結論は出ていないが、中間報告的なものはあるという。それによると、ポスト共産主義の選択肢は4つ例示されている。第1は北欧型社会民主主義、第2は日本型社会主義、第3はシンガポール型政治、第4は北欧型とシンガポール型のミックスで、第4が最も現実的なものとされた。日本型社会主義とは第2次大戦後、自民党など保守政党が行った政治を指しているようで、これを「社会主義」と分類したのが面白い。「北欧型とシンガポール型にミックス」とは、社会民主主義を中国流にデフォルメしたものをイメージしているのだと思われる。 この事実は、中国共産党の中で、ポスト共産主義の政治システムのあり方が不可避のテーマとして真剣に検討され始めていることを示している。党内の腐敗問題の行方とともに、いわゆる「2012年問題」は今後の中国政治の焦点となる。(ジャーナリスト 早房長治)
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