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そういうことを見越して、福井日銀総裁は11月の記者会見で、「量的緩和政策は、デフレスパイラルに陥って経済が死んでしまうことを捨て身で防ぐ異例の措置であり、金利機能も殺してしまっている。消費者物価が安定的にゼロ%以上になると判断した時点は、そうした異例の政策を通常の政策モードに切り替える通過点だ」と発言したと思います。 あとで議論になるかもしれませんが、僕は、量的緩和政策が4年半も続き、金融市場はじめさまざまなところに副作用が出ていること、とくに行き場のないマネーが大都市の不動産、マンション買いなどに向かってミニバブルを引き起こし始めていること、金融システム不安がなくなってデフレスパイラルリスクもなくなったこと――を考え合わせれば、日銀は量的緩和政策を解除するタイミングかと思っています。 しかし、申し上げたいのは、日銀はもうマーケットも織り込んでいるし、メッセージも発信してあるから大丈夫だろうと見たのだけれども、自民党の中川政調会長らの日銀法改正までを持ち出して量的緩和解除をけん制した意味合い、背景、思惑を読み違えているんじゃないかという点です。軽く見るべきでない、と思います。これからどうやってマーケットに対してメッセージのし直しをするか。僕はそこがポイントか、という気がしますけどね。 早房: しかし、日銀、すなわち、中央銀行の独立性の問題というのは、先進国の金融政策の中で非常に重要な問題だと思います。 牧野: もちろんそうですよね。 早房: この問題が非常にはっきりと表面化したのが70年代くらいからだと思いますけれども、アメリカとかヨーロッパのいくつかの国、イギリスから始まってフランスも中央銀行の独立性が強化された。ドイツは第2次大戦後、一貫して金融政策は中央銀行の専管事項とされてきた。日本は大分遅くなったけれども98年にやっと日銀法が改正された。 その日銀の独立性というのはただ単に中央銀行が独立性を持てばいいということではなくて、それが、経済なり金融を安定的に運営する上でプラスにならないと意味がない。 98年に改正された日銀法はその独立性ということを非常に強調している日本で始めての法律なわけですけれども、この「独立性の重要性」を町田さんはどういうふうにとらえていますか。 私はワシントン特派員をやったことがありますが、FRBが利上げをしようとすると、やっぱりアメリカの議会でも、景気の判断の絡めて、まだ早いんだとか、インフレ懸念はないんだといった具合で、金融を引き締めることに対しての抵抗というのは強い。どこの国でも、いつの時代でも強烈に強いものです。その場合、そういう景況感から、議論をするというのはあり得ることだと思います。実際、(政府・与党サイドで)政治的には、いろんな配慮が働くこともあるでしょう。しかし、その牽制発言をする時に独立性を侵す、「日銀法を変えるぞ。言う事を聞け」というのはやっぱり禁じ手じゃないかというのが私の印象です。 早房: そりゃアメリカの議会だってまさかFRBの自由を奪うなんていう議論はないですよね。 町田: そりゃ絶対言わないですよね。 早房: 牧野さんはどう思いますか。 牧野: お二人の議論に全く同感です。いろんな経緯を経て日銀の独立性を確保したわけですから、日銀は十分その意味はわかっていますよ。政治もわっかっているはずと思いますけれどね。 だから今、日銀は、政府に対して、物価の安定が最大の政策課題であり、デフレ脱却も当然、それにからむ問題であること、敢えて政府サイドや自民党に言われなくても、そんなことは百も承知で、政府の政策と整合性をとる必要があることは十分に承知していることーーをはっきりいい、あとは「私たちに任せてください」と言って日銀の独立性に対する尊重を求めれば十分です。 さきほど申し上げたとおり、中川自民党政調会長らの思惑は、資産価格の引き上げを狙い、それによるデフレ脱却に弾みをつけるため、日銀法改正問題を引き合いに量的緩和政策の継続を強く主張する、ということだと思っています。一方で中川政調会長らが主張する歳出削減による財政のスリム化も、下手をすると、大胆な規制撤廃による需要創出などを進めない限り、経済に対してデフレ要因になりかねない。そこで、量的緩和継続で資産価格引き上げを図り、税収増を引き出すことで国債依存度も減らし財政再建へ、というのが政治の思惑でしょう。 日銀は、政治の一部にある、これらのさまざまな思惑に対して、毅然として形で説明責任が行えるように、量的緩和解除に至るメッセージを発信すること、とくに政治だけでなくマーケットにも、それに行政府に対しても、発信すること。それが政策の透明性があって、納得できるものであれば、日銀に判断を委ねたことは正しかった、ということになり、結果として、日銀の独立性も確保できると思います。 要するに欧米で政治のリーダーになろうと思ったら歴史を勉強しないとなれないわけ。歴史を勉強していない人をリーダーにしないから。だけど日本っていう国はそういう人が不思議とリーダーになれるわけですよね。 僕はこの中央銀行の独立性についても、政治家に金融政策を決めさせちゃうと、選挙から強い影響を受ける政治家の都合のいいように金融政策を変えてしまうので、やっぱりそれは中央銀行に任せたほうが長い目で見ればよかったんだという経験則から、中央銀行の独立性というのが70年代ごろからはっきり出てきているわけです。だから、日本の政治リーダーが、先進国における長い間の経験則に基づいた判断ということをどうしてわからないのかと、僕は不思議でしょうがない。勉強不足もいいところだと思いますね。 牧野: でもね、中川自民党政調会長だって、もとは日経新聞の記者だったし、竹中総務相だってもとは経済学者として十分に日銀の独立性、つまり金融政策が政治などに対してインディペンデントな立場で物価の安定をめざすべきだというのはわかってるはずですよ。 要は、谷垣財務相ら財務省が懸念する量的緩和政策の解除で金利上昇期待がマーケットに出る、これが景気にネガティブに働くことを防ぎたいと。そこは中川自民党政調会長も同じ意識なのでしょうが、中川政調会長ら政治の側の意図は、だから、量的緩和を続けさせ、資産価格を上げて、今の景気状況をそのまま温存したい。そして消費税率の引き上げなどの時にできるだけ先送りしたい、と。 今のままの状況だったら、多分2年後の参院選を迎えた時に、政治にとってはネガティブですよ。それはポスト小泉の政権にとってはしんどい。だから、その時点で経済に問題が起きないように、日銀に我慢させようという政治の思惑ですよ。 それは、日銀の独立性の問題とは明らかに違いますよ。 早房: いや、それはわかりますよ。わかるんだけれどもさっき町田さんが言ったようにね、中央銀行の独立性を否定するってことを言うのはね、禁じ手なわけだ。 町田: そこは牧野さんも全く同じで、なぜそこを敢えて言ったかっていう点で、政治的な立場があったというところまでは、この3人の認識は一緒でしょう。では、政治的な狙いが何なのかというところでは、少しニュアンスが違う感じはありますけれども。 早房: それは相撲で言うとね、マゲの中に手を突っ込んだらね、いくら勝ったって負けなんだから。それに近いことをやってるわけ。 町田: そうですね。それから東京市場に入ってくる外国人投資家は、当然独立しているはずの中央銀行を日本が持っていて、適正な金融政策が運営されるはずであるという前提で入ってきているわけです。 もし、このまま本当に日銀が屈して、量的緩和もゼロ金利も何もできずにいって、(金融緩和解除の)タイミングを失するようなことがあれば、日本の金融政策が信任を失って、お金が全部海外に逃げていってしまう。そうすると、相場も景気もまた元の木阿弥になってしまうわけですから、そういう意味ではやっぱり日銀は惑わされずにきっちりやるべきだろうと思います。 で、まさに牧野さんがおっしゃるように、なぜ今やらなければならないかを、いかに理路整然と説明して、政府・与党を押し切っていただくかということになりますよね。やはり、解除は避けられないこと、必要だなあという印象ですね。 |
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