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戦後最大の疑獄といわれたロッキード事件とは、何だったのか。元首相逮捕が、その後の政治に与えた影響、特捜検察の存在意義、事件に関わった人物たちの人間模様、30年の歳月を経て、いま問われるべきものは何か、などの視点から、取材を担当した記者が、個人的感想も含めて「ロッキード体験」を伝える。連日、掲載する全10回のシリーズです。 第3回 「ピーナツ領収証」 事件は1976年2月、米国から日本に投げ込まれた。米国側の真意をめぐって、独自の資源外交や日中国交回復政策を展開した元首相を狙い撃ちにした陰謀、と取りざたされた。「虎の尾を踏んだ」とコメントした評論家もいたが、いまもって、その憶測を裏付ける証拠は明らかになっていない。疑惑解明を委ねられた検察は、米国の真意を憶測するより、ひたすら証拠を追うしかなかった。米国発の事件であるがゆえに障害も大きかった。 最大の難関は、ロッキード社で全日空へのトライスター売り込み工作を進めたコーチャン元副会長らが米国にいて、日本の捜査の手が及ばなかったことである。東京地検特捜部は、前例のない嘱託証人尋問によって米国の裁判所でコーチャン元副会長らの供述を得る努力を重ねると同時に、丸紅、全日空など日本側関係者の供述で、証拠固めを急いだ。 セミの鳴く暑い夏が近づき、特捜部は嘱託尋問手続きを横目に、見切り発車せざるを得なかった。最初の「ピーナツ領収証」に相当する1億円授受の時効が8月半ばに迫っていた。7月2日に伊藤元専務を逮捕し、松尾検事が5億円授受を裏付ける決定的な供述を引き出して、捜査は核心に迫った。その後に、イミュニティー(刑事免責)を米側証人に与え、ようやく証言調書を入手する運びとなったが、元首相逮捕を標的とした捜査は、調書の到着を待っていられなかった。 最高裁は元首相の死後に言い渡した丸紅ルート判決で、1、2審が採用した嘱託尋問調書の証拠能力を認めなかった。国内捜査による証拠で「総理大臣の犯罪」は立証できている、との判断で、松尾検事らの地道な証拠集めが実を結んだことになる。 検事総長として松尾さんは、刑事裁判に09年から導入される裁判員制度に国民の理解を得るため、模擬裁判や企業訪問などを通じてPR活動に務める。ボンの日本大使館アタッシェも経験し、国際的な観点も踏まえて日本の司法を改革する役割を担う。 日本記者クラブで昨年暮にこのテーマで講演した際、松尾さんは「行くに径(こみち)に由らず」と論語の言葉を揮毫した。これは、主任検事だった吉永祐介さんが掲げる信条と同じで、常に大道を歩む心構えは、ロッキード捜査が原点かもしれない。(高尾義彦=寄稿) 【司法ジャーナリスト・高尾義彦】1945年徳島県生まれ。東大文学部卒。毎日新聞司法キャップ、編集局次長、紙面審査委員長など歴任。著書に「陽気なピエロたち 田中角栄幻想の現場検証」(社会思想社)「巨悪に挑戦 東京地検特捜部」(エール出版)「中坊公平の 追いつめる」(毎日新聞社)など。 |
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首相の犯罪であるからこそ、闇に葬らずに徹底して追求されるべき。 今の様々な日本の不可解な事件出来事は、こういう事件が徹底解明されていないことも、大きな要因ではないか? 現代の日本人に一番欠けているものが当たり前の「正義感」ではないのか。 この事件に関わったジャーナリストが、元気なうちに今一度検証されるべきと思う。
2006/2/3(金) 午後 0:44 [ 塩見王男 ]
いまや世の中を救うのは検察しかいないのか? ライブドア事件に象徴されるいまの社会風潮をそんな風に思ってしまうとき、ロッキード事件での特捜の活躍がよくわかって面白い! あしたがまた楽しみです。
2006/2/3(金) 午後 1:26 [ 大野 ]
ダメな政治家が利用したホリエモンの実像も、特捜検察の出番まで分からなかった。一体マスコミは、何をしていたのか。 それにしても、長年に亘る高尾記者の取材努力には、拍手を送りたい。
2006/2/3(金) 午後 2:23 [ 山ちゃん ]
スクープする人も、悪を正す人も昼夜を問わず「額に汗する」地道な努力家ですネ。「神は現場に宿る」。「人の道を歩く」ことの大切さを高尾記者から教わります。
2006/2/3(金) 午後 2:58 [ 武士道 ]
30年前の事件と思えないほど、生々しいです。今再び特捜に注目が集まっていますが、変わったのか変わらないのか、そのあたりをどのようにご覧になっているかについても期待しております。
2006/2/3(金) 午後 3:14 [ tabi ]
今朝の毎日新聞朝刊記者の目に「政治部」の人が書いていた「ロッキード30年」が載っていたが、社会部の人が書いているこちらの方がディテールがしっかりしている。
2006/2/3(金) 午後 4:12 [ 千葉のトラキチ ]