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戦後最大の疑獄といわれたロッキード事件とは、何だったのか。元首相逮捕が、その後の政治に与えた影響、特捜検察の存在意義、事件に関わった人物たちの人間模様、30年の歳月を経て、いま問われるべきものは何か、などの視点から、取材を担当した記者が、個人的感想も含めて「ロッキード体験」を伝える。連日、掲載する全10回のシリーズです。 第10回 「新聞が果たした役割」 「灰色高官」は、ロッキード資金受領が判明しながら、職務権限や時効のため刑事責任を問えなかった政治家を指す。二階堂進、佐々木秀世、福永一臣、加藤六月の4議員が2−500万円を受け取ったと東京地検特捜部は認定し、事情聴取必至の時期だった。 問題の記事は、「『灰色高官』4人から聴取」の大きな見出しをつけ、8月26日朝刊1面トップで報道された。前夜11時ごろに、社会部記者だった筆者が都内の公衆電話から、下書きを用意する暇もなく、いわゆる「勧進帳」で送った原稿だった。朝刊で各社一斉に足並みをそろえた「誤報」だった。 前夜は、政治家逮捕が山を越えて少し緊張が緩んだせいか、夜回り取材を一部省略した。ところが、こちらが手抜きをした検察幹部宅で「すでに聴取した」という話が出たとの情報を、遅れてキャッチする羽目になった。電話で送稿中にNHKが「灰色高官聴取」のニュースを流し始め、社内のデスクから「何をやってるんだ」と怒鳴られた。 原稿を送り終わってホッとしたものの、どうも腑に落ちない。午前0時過ぎに主任検事の自宅に上がりこんで確認すると、「やってないよ」とそっけない。愕然として、電話を借りて情報の発信源である検察幹部に確かめると、否定も肯定もしない。主任検事に改めて話を聞き、心証としては「まだだ」と感じたが、全メディアが「聴取」で走り出している。締切時間ぎりぎりで、回り始めた輪転機は止めようもなかった。 翌日、自民党田中派の代表が東京地検検事正に抗議に訪れた。検事正は夜になって聴取を否定する談話を発表し、毎日新聞も翌日の朝刊に「お詫び」を掲載した。4人はその後に聴取を受け、事件の骨格にゆるぎはなかったが、早とちりに冷や汗を流した。 「誤報事件」はマイナスの教訓だが、ロッキード報道で毎日新聞は、事件発覚当初から捜査当局の発表に依拠せず、自力でさまざまなニュースを発掘し、その成果は「調査報道」の走りとなった。捜査に積極的だった三木武夫首相の退陣を迫る自民党内の「三木降ろし」に対抗するキャンペーンを張って、真相解明を求める国民の立場で紙面展開した。 最近、田中元首相の弁護団の一人から、ライブドア事件に関して「何故、新聞は検察の捜査以前に、問題点を読者に伝えられなかったか」との意見を聞いた。元首相を「今太閤」と持ち上げたマスコミが、その後に徹底的に元首相をたたいた構図とライブドア事件が重なって見えるようだ。 その批判を自戒の糧として受け止めつつ、新聞に対する読者の期待を裏切らない紙面を、と痛感する。それが、新聞作りに新しい地平を開いたロッキード報道の財産を生かす道だ、と付言したい。(高尾 義彦=寄稿) 【司法ジャーナリスト・高尾 義彦】1945年徳島県生まれ。東大文学部卒。毎日新聞司法キャップ、編集局次長、紙面審査委員長など歴任。著書に「陽気なピエロたち 田中角栄幻想の現場検証」(社会思想社)「巨悪に挑戦 東京地検特捜部」(エール出版)「中坊公平の 追いつめる」(毎日新聞社)など。 |
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この記事を読むと取材に挑む姿勢がいかに厳しいものであるかが分かる。 記者は強靭な意志と行動力を持つ事を教えてくれている。毎日新聞ではそのような意志がねづいているのか、昨年の「特集『戦後60周年の原点』シリーズ」など一連の報道も丹念な取材で読み応えがあった。
2006/2/11(土) 午後 7:00 [ 森下一徹 ]