トリノ五輪で沸いたイタリアでは、同地でパラリンピックが開かれているが、国民の関心は4月9日に行われる上下両院の総選挙に集まっている。今度の選挙は、「イタリアのナポレオン」と自称するベルルスコーニ首相率いる中道右派連合「自由の木」と、プロフェッサー(教授)と呼ばれるプロディ元首相(前EU委員長)を統一首相候補とする中道左派連合・「ウニオーネ(連合)」が激突している。世論調査では、選挙前からプロディ陣営が終始優位を保ち最近の調査でも4ポイント程度リードしている。
?H5> 初のアメリカ式テレビ討論
こうした中で、ベルルスコーニ・プロディが直接対決する初めてのテレビ討論が14日夜実施された。イタリアの党首討論は、これまでいわば「なんでもあり方式」だったが、今回は、米大統領選のテレビ討論方式を採用した。しかし、質問に対する回答時間は2分半に制限されるなど極度に“公平”に配慮したものであったため、支配下のテレビで自由奔放に発言してきた「メディア王」の現首相は時間オーバーをしばしば注意され、「十分な説明ができなかった」と不満を表明、米国紙も「新味なく刺激に欠け退屈」と酷評。
討論直後の4つの緊急調査は数字の違いはあるがいずれもプロディ勝利としている。全体としては元首相が優勢だったが、相手に決定的打撃を与えることはできなかったという評価である。同日行われた調査によると。有権者の64%がすでに投票相手を決めており、態度未決定は24%。このうち棄権を除くと14%が投票意欲を示しながらも相手をまだ決めていないという。勝敗の鍵を握るこれらの有権者がどちらを選択するかは選挙直前の4月3日に予定されている2回目のテレビ討論に持ち越された。
?H5> 拘束名簿式比例代表選挙の導入
選挙結果を左右するもう一つの要因は選挙制度の変更である。イタリアは1994年以降、日本と同じ小選挙区比例代表並立制を採用していたが、小選挙区は野党に有利ということで、現政権が比例代表制度に去年の暮れ変更した。といっても、個人名投票が認められポルノ女優のチッチョリーが当選した、かつての「選好投票制度」(現在の日本の参院比例に似たもの)に戻した訳ではなく、拘束名簿式で候補者に固定順位がついている(以前の参院比例と同じ)。下院の定数は630人だが、従来通りの小選挙区で選挙が行われるフランス語圏のヴァレダオスタ州と新設された海外在住者の4選挙区を除く26選挙区617議席が比例配分の対象となる。各政党の名簿を一緒にして”連合”を形成することができ、全国集計した得票はまず連合と得票率4%以上の単独政党の間で、最大剰余法で比例配分される。続いて連合内の各政党に得票に比例して議席配分されるが、得票率2%未満の政党には議席配分されないという制限がある。
?H5> 理不尽なボーナス議席
議席配分で問題になるのが、勝者に与えられるボーナス議席である。これは、最多得票を得た“連合”は得票率がどんなに低くても、比例部分の55%・全体の過半数(316議席)を24議席上回る340議席が与えられるというものである。この結果、選挙後の政権与党は野党に最低でも50議席の差をつけることになる。このボーナス議席は、各州ごとに集計・比例配分される上院選挙(定数315)にも適用される。勝者が54%以上の得票を獲得すれば問題はないが、接戦になった場合、民意とはかなりかけ離れた選挙結果になる。また、下院と上院では、選挙結果が大きく食い違うことも予想される。
プロディは、政権に返り咲いたらこの理不尽な制度を廃止すると言明しているが、新たに「再建共産党」まで加わった「ウニオーネ」内部が簡単にまとまるとは思われない。むしろ、全体の議席は増えても議席配分を受けられない小政党の不満が噴出しそうである。一方、ベルルスコーニにとっては、比例代表の部分に限れば、前回の2001年はもとよりプロディに破れた1996年の選挙でも中道右派の得票が中道左派を上回っているのが頼りで、接戦に持ち込み1票差でも勝って、ボーナス議席を得ようというのが狙いである。
?H5> 「ワーテルローの戦い」か「エルサレム入城」か
選挙勝利に「セックス絶ち」の誓いをたてたベルルスコーニ首相だが、ムハンマド風刺画のTシャツを着用した制度改革相と電話盗聴疑惑の保健相の閣僚2人が辞任したのに続いて、本人にも英国文化相の夫(最近離婚)だった弁護士に裁判での偽証を依頼した疑いが持ち上がり、検察当局が刑事裁判開始を請求するなど災難続きだ。さらに、Tシャツ事件に関連して制度改革相の所属する「北部同盟」が今週、欧州議会から登院停止処分を受けたのも痛手、陣営内部の結束に影響するのではと懸念されている。
「私以上に国に貢献した人物は、唯一ナポレオンだけだ」と豪語した首相にとって、今度の選挙が「ワーテルローの戦い」になるのか、それとも数々の苦難を乗り越えて「政界のイエス・キリスト」(支持者夕食会の発言)として再び祝福を受けるのか注目される。ちなみに、投票日の4月9日はパーム・サンデー(棕櫚の葉を撒いて勝利者を迎え入れたイエスのエルサレム入城の日)である。
(仁平 俊夫)
|