メディア・レボリューション

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きれいな花には毒がある

 9月はじめの森は一年を通じて一番の安定期でしょうか、とても落ち着いた感じがします。
 それでも深みを増した緑から、ときおり カツラ の黄葉がカラメルの芳香を漂わせながら、ひらりと落葉してきます。
 森で一番早く色づく ツタウルシ の出番はまだちょっと早いようです。
 路傍に目を向けますと ミミコウモリ ミゾソバ など、小さくて地味な花が物静かに咲いています。


 森の女王 
イメージ 1 こうした時期に一番目立つ花は トリカブト です。
 平安時代の貴族がかぶる烏帽子のような花が、紫の高貴な色に包まれて凛として咲いています。
 とくに雨上がりの濡れたトリカブトには有無を言わせない迫力すら感じます。
 トリカブトは比較的花の少ないこの時期の 「森の女王」 です。

 トリカブトを有名にしたのは保険金殺人事件です。
 福島の野山で採取したトリカブトを沖縄のホテルで使って妻を殺害し、多額の保険金を詐取しようというものでした。
 マスコミは「妻を死に追いやったトリカブト疑惑」として大々的に報じました。

 〜当時、子供たちを森に案内すると植物に興味を示さず、森に来た開放感でわいわいがやがやうるさく、ガイドの話に耳を貸そうしない。
  ところが、これがトリカブトです、というと、急に静まり返ってまじまじとトリカブトを見つめる〜

 森のガイドが苦笑して話してくれたことがあります。

 日本三大毒草 
イメージ 2 子供の間でも有名なトリカブトは三大毒草のひとつです。
 トリカブトは春先の芽だしのときから、一種独特の光沢と潤いをもち、他の野草とは一味違って光り輝いています。
 写真は4月初め、まだ雪残る湿地から顔を出したトリカブトです。
 ニリンソウという山菜があります。
 おひたし、天ぷらにするとおいしいです。
 葉がトリカブトと似ている上、よく隣り合わせに出ていることから ニリンソウ と間違って、毎年のように命を落とす人がでます。
 
 しかし、トリカブトの存在感は芽出し・成長・花の時期、いずれも他の植物の比ではありません。

 いつの時期に観察しても強い意志を感じさせる植物です。
 一口にトリカブトといってもその種類は世界に約200種、日本だけでも68種を数えるそうです。


イメージ 3 北海道でよく見かけるのは エゾトリカブト です。
 種類によって毒性も違いますが、もっとも猛毒なのが オクトリカブト (写真、5月撮影)だそうで、北大植物園などで観察することができます。茎の先が丸く葉を包むように成長するのが特徴です。

 アイヌの人はトリカブトの毒を矢につけてクマを射止めました。
 その製法は秘伝とされ、口述伝承されました。

 コタン(集落)でトリカブトによる犠牲者が出た場合、コタンの酋長が遺族の生活を保証したそうです。
 ただ日本政府は明治の早い段階から毒矢による禽獣の捕獲を禁じました。
 しかしそれから100年以上たっても、トリカブトは世情をにぎわしています。
 トリカブトは森にアクセントをつけてくれる植物です。


 ヘボナの毒汁 
イメージ 4 森だけでなく神社や公園に見られる イチイ の木に赤い実がつき始めました。
 実は食べられますが、種は有毒です。

 シェイクスピアの名作ハムレットでデンマーク王の耳に注ぎ込まれた「ヘボナの毒汁」の正体はイチイの種だといわれています。
 西洋ではイチイは毒・呪いとともに語られることが多いようです。

 聖徳太子が胸の前で両手で握っている笏(しゃく)は一位など官位の高い人しか持てませんでした。
 この笏を作る木であることからイチイの名がつきました。
 イチイは アララギ とも言われ、歌人斉藤茂吉らのグループ、アララギ派はこの木がシンボルです。
 西洋と東洋でイチイに対するイメージが違うのが面白いところです。


 ソクラテスの恨みの血 
 毒殺といえばソクラテスがその犠牲になりました。
 ソクラテスの殺害に使われたのは ドクニンジン です。
 すらりと伸びた緑色の茎、若葉の頃はパセリやニンジンに似て柔らかくておいしそうに見えるのがドクニンジンです。
 これが猛毒で、古代ギリシャではドクニンジンを死刑執行に使っていたそうです。
 ドクニンジンの毒は普通の毒と違うようです。イメージ 5
 ドクニンジンは意識を残したまま、ジワッジワッと肉体を硬直させながら死に至らしめる、とても残酷な毒だそうです。
 悪魔の花、聖母の刺繍 などとも言われる由縁でしょうか。ドクニンジンに似ているもので、同じセリ科にシャクという植物があります。
 シャクは茎がつるつるであるのに対し、ドクニンジンは赤い斑点があります。(写真右)「ソクラテスの恨みの血」といわれているそうです。
 (写真は道立衛生研究所の薬草園で観察したものです。)

 北海道で最も著名な薬草博士から「ソクラテスの恨みの血」なんていう話を聞きながら観察すると、迫ってくるものがあり、身震いしてしまいました。
 森にはこのほか コウライテンナンショウ(別名:マムシグサ)、ドクゼリ、バイケイソウ などいろいろな毒草があります。

イメージ 6 トリカブトほど目立ち、迫力のある毒草は他に見られません。
 もういちどトリカブトを鑑賞してみましょう。
 今月6日、野幌森林公園で撮影しました。
 まさにこの時期の森の女王です。

 トリカブト 咲いて天下の 秋を知る?  

 (望田 武司=寄稿)







望田 武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
 

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