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非常にユニークな研修プログラムに参加する機会があったのでご報告して経験を共有したいと思う。 プログラムというのはCELAといって今年で6年目になる。中央アジア・コーカサス9カ国(アフガニスタン・アゼルバイジャン・アルメニア・グルジア・カザフスタン・キルギスタン・タジキスタン・トルクメニスタン・ウズベキスタン)の官庁・企業・非営利団体から4〜6名のミッドキャリアの男女(原則男女同数)を選抜。11日間の英語によるリーダーシップ研修合宿を行うというもの。 それだけ聞けばどこにでもありそうなプログラムに聞こえるが、実は3つほどのひねりがある。 三つの「ひねり」一つは言うまでもなく、参加対象国が旧ソ連構成国であり、かつ現在それぞれに独裁政権のもとにあるが、いづれかの時点で「民主化」が期待されること。その時に備えて民主的ガバナンス(支持)の要諦を身につけておいてもらおう、とする。つまり、押し売りの民主化アドボカシーではなく、技法の教習と言う衣をまとっていること。二つ目は先にも触れたように、三つのセクターから注意深く、男女バランスにも配慮して人選をすること。人選には一人のプログラム・ディレクターがあたり、3ヶ月をかけて9カ国を回って面接・人選を行う(応募はネットによる)。倍率は6倍から7倍とのこと。 三つ目は、これが日米両国の民間イニシアティブによって設立されたこと。それぞれの国のコミットの仕方については後に触れる機会があるが、これら9つの国々の置かれた現状を見ると、これは絶妙の組み合わせであると言ってよい。というのも、これらの国々では彼(女・今後は便宜上、彼と略する)らの共通言語がロシア語であることが象徴しているように、社会・経済的にロシアの影響力を無視してはなにも出来ない。それを彼らは百も承知している。しかし、べったり依存という精神構造からは「及ばずながら」脱却していたい。かといって、欧米、特に米国依存は周りの国々での米国の振る舞いを見ているとこれもご遠慮申し上げたい。ヨーロッパは、そのイスラムに対する態度一つを見ても(ちなみにこの9カ国はグルジアを除いて全てイスラム国である)、経済関係以外の関係の深まりは期待薄である。そこに日本が入れば格好の「毒消し」になる。(ちなみにEUはこれも類似の発想からだろう、英国を表に立てて、1ヶ月の研修プログラムを若干異なった対象国を相手に行っている。この地域のミッドキャリアを対象にした研修プログラムはこの二つだけ。かつてインドシナ半島諸国に対して、あらゆるドナーが競って研修プログラムを乱立させ、政府当事者が「派遣するヒトが足りない」と悲鳴を挙げていたのと好対照である。) プログラムの中味と特徴10日余りの研修プログラムそれ自体は、ハーバート流のケース・メソッド、ロールプレイ、さらにはやや旧いが血液型ならぬマイヤース・ブリッグスによる性格分類などなど。分科会・プレナリーの組み合わせ、というお定まりのコースだが、二つほど極めて特徴的なことがある。一つは徹底したチームワーク重視。要するに参加した40名弱のメンバーが相互に知り合い、仲良くなることを中心にプログラムが組まれている。入学式のときにランダムに座らせて、お隣同士にそれぞれ相手の自己紹介をさせる、といった定番から始まって、食事のテーブルでも、あるいはエクスカーション(小旅行)でも、ファシリテーター(促進者)と呼ばれる十数名の米国人ボランティアとその夫人(正確に言うと配偶者。ファシリテーターには女性もいる。配偶者の仕事は参加者の自伝を聞き取ってまとめあげ、解散時に印刷物にして配布すること。だからお世話役はあわせて二十数名になる)が参加者相互が溶け合えるような様々な工夫に積極的に機能する。これが「人なつっこい」ご当地の国民性と相まって、参加二晩目からはもう夜中まで大騒ぎになる。(この研修は250ヘクタールに及ぶコッチ大学の敷地で、夏休みを利用してその施設とゲストハウスで行われる。酷暑のイスタンブールからかなりの高地にあるこのキャンパスは涼しい別天地。大学のこととて、バー以外は禁酒なのだが、それが。) 二つ目はボランティアの米国人が、全員リタイアした裕福な実業家で。彼らは単に資金的にこのプログラムをサポートするだけでなく、手作りの研修プログラムに自ら講師役を務め、例外的に数名の専門家を招聘して講義させるという趣向である。自分たちがかつて参加したことのあるいろいろな研修プログラムの中で最も効果があったと思われるものを、合議の上で編集作成し、それぞれが役割を決めて実行までするというのだから、そのエネルギーたるや凄い。ほとんどが南部諸州(ジョージア・テキサス・サウスカロライナ)の実業家で、この2週間は南部訛りの柔らかい英語に浸ることになったが、考えてみれば、大阪商工会議所の現役引退した元会員の社長さんたちが、数十人集まって、シャッター商店街や、母子家庭のお母さん起業に向けての泊まり込み研修、あるいは引きこもり、登校拒否の子供たち向けの社会復帰プログラムを、手弁当のみならず資金負担までして手作りでやろう、という話である。米国の市場原理主義に批判は多いが、反面でこうした実業人が、数少ない風変わりな物好きとしてではなく、ごくごく一般的に存在しているという凄さはもっと知られてよい。残念ながら日本のこの面での参画は困難だったことから、役割分担も(筆者の参加を含め)ごく限定されたものにならざるを得なかった。 だから、このプログラムは研修内容それ自体の質というよりは、参加者の質の高さと、その相互コミュニケーションの深度化への工夫に真骨頂があるというべきだろう。例えばエクスカーションはある日海岸に行くのだが、6人一組のグループにチーム編成した上で、与えられた材料(ビニールシートとプラスチックパイプとコネクタ、それにポリタンクとナイロン縄)でボートを作り、海岸の砂をつめたコンテナを積んで沖のブイまで往復し、より短時間で、より多くの砂を運搬したチームが勝ち。さらに擬似貨幣を各チームにあたえ、不足資材を別にしつらえた競り市で競り落とさせる、という趣向である。バカバカしい、といって斜に構えてしまえばそれっきりの話だが、参加者の真剣なこと。ファシリテーターの真面目なこと。20代から40代の日本の若者に同じ場を与えて反応を見てみたい、と思ったことだった。 なぜコミュニケーションとチーム作りにそれほど意味があるかと言えば、ことはプログラム終了後のアフターケヤーに関る。参加者たちは卒業後もメールで頻繁に連絡を取り合っている(相当に独裁色の濃い国でも、これだけは規制されていない)のみならず、数年に一度、同窓会が開催される。20代後半から40代前半の彼らがこうして再会するのは、単にノミニュケーションの機会が出来たり、「やあやあ」と旧交を温めるというだけのことではない。地域一帯の指導者予備軍がこれで数百人ネットワークとして組織され、機能しているのだ。将来的にはこれを軸にして、コミュニティ財団のようなものを組織する計画もあると聞いた。そのポテンシャルは、中欧のビロード革命をもしのぐのではないか、というのが実感である。 その含意敢えて蛇足を付せば、こうしたプログラムはお役所でも企業でも絶対に企画できない。民間の非営利団体のみが発案・実行できる独壇場である。参加者の人選を特定のディレクター一人に委せていることを例にとろう。一見これは恣意的で危険な選択を許すように見える。だから四角四面のお役所であれば、安全のために、有識者を集めた「選考委員会」にかけるというコスメティック・ワークによるプロセスを採るだろう。両者の人選にどれほどの差がでるか、さして想像に難くはない。もちろんこれが機能するためには、ディレクター人選についての「めきき」の確かさが要求される、さらに仲間内のネポティズム(えこひいき)に陥らないためには、ネットワークが肝要になる。この例で言えば、ディレクターの採用情報という形で、民間非営利団体相互間の情報交換や信頼感が絶対に必要になる。このプロジェクトにおけるチームワークと同じで、国際的な民間非営利団体の「お仲間」の中でしか質の良い企画は実現できない。分野・テーマにもよるが、世界中でこうした「お仲間」に属するプロは数百人しかいないだろう。(ちなみに日本ではこれに該当する人材は多分一桁だと思う。ということは世界から「お仲間」だと見なされる人がそれだけしかいないことに通じる)。しかし、その数百人がそれぞれに数十人の信頼できる仲間を持ち。それがまた、とねずみ算なのがこのセクターの面白いところだ。これは、失点主義だったり(つまり完璧ではないことをあげつらってアイディアを没にする態度。公的セクターに典型的である)、投資効率の数値化にのみ関心があったり(いうまでもなく企業セクター)ではまず考えられない行動様式だろう。もちろん非営利団体にはそれなりの短所もあるが、それはとりあえず本稿の対象ではないから割愛しよう。この種の試みが民間の手に委ねられず、なにかというとお役所が先導したがったり、企業のCSRもどきにしか可能性を見いだせないわが国は、ある日「世界の孤児」になっているメンタリティを発見することになろう。自民党が参院選に負けたより、本当はこっちのほうがより深刻な話なのだが。(入山 映) |
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またまた突っ込ませて頂きます。参院選に自民党が負けたという事実は、極めて深刻…日本にとっては重大な「事件」だと思います。「世界の孤児」になることを恐れてのアメリカ追従、これまで散々ポチに振り回された国民が、自国の腐敗政治に気づき、立て直しを試みたとすれば、日本にようやく真の「市民社会」が構築されるかもしれないという希望を持たせるものでもあります。もとより自民党の今後の政権維持は、憲法改正(悪)の問題とも深く関わっており、これをたとえ比較の問題であるにせよ、深刻でないとも受け止められるご意見、いかがなものでしょう。T財団理事長であったT氏が日銀総裁の候補にあがるなど、日本の(まあアメリカもそうですが)資本力豊かな大財団は、政治中枢(自民党)に深く関与することになぜか躍起、善行はその隠れ蓑と言ってもよいかもしれません。自民党の敗北によって、こうした存在にもメスが入れば、政治の腐敗した膿をようやく根っこから押し出せるのではないかと期待しているところです。まあ、本文のコメントとしては的外れながら、それは別の問題として置いておくとして。(キ)
2007/8/10(金) 午後 0:16 [ 倫理より「優秀」が研究員の条件という財団は世界の? ]
コメントというのは本文と関わりのあるものである、というのがエチケットではないでしょうか。
2007/8/11(土) 午後 1:50 [ 入山映 ]
とても面白いです。
●男女均等とありますが、宗教に関しても、地域がらイスラム教徒も交えた公平なものとなっていたのでしょうか?
●授業の風景、参加者の声など具体的なものは、ここで発表できないのでしょうか?彼らの考える民主化のかたちがどのようなものかがしりたいです。また、政治状況が異なる近隣諸国の青年たちの考え方の共通点・相違点がどのおうなものだったのかなど、興味あります。
●舞台をこしらえた「南部諸州の『実業家』」について、どういうかたがたがどういうモチベーションでこのイベントを企画したのでしょうか。目的はわかりましたが、行動へいたったプロセスに興味があります。
●このような創造性あふれる、公益追求型のイベントが日本で生み出されるとすれば、a)どういった段階を踏まねばならないとお考えですか?また、b)どのあたりから産声をあげると思われますか?
2007/8/12(日) 午前 1:48 [ 興味津々 ]
興味津々さま。プログラムに関する情報はwww.celaprogram.org.でご覧になれます。内容の詳細はこのブログでご報告するのは適当かどうかためらわれます。後二つのご質問に対する回答を含め、ご希望によっては別の手段を考えたいと思います。
2007/8/12(日) 午後 2:33 [ 入山映 ]
S系T財団は以下の事件を起こした中東問題のオーソリティS氏を「この男を活用しないのは国家的損失」という理由から、事件直後に主任研究員として迎い入れています。つまり財団は、「公益」のためであれば倫理は不問という立場にあると考えられます。雇用に賛同した人物・経緯については吹浦忠正氏のブログをご参照(この事件が書類送検のみ!?)【元拓大教授を書類送検 「中東情勢は命がけ」と学生刺す】東京都文京区の拓殖大海外事情研究所で昨年12月19日、都内の私立大の男子学生(24)が刺され重傷を負った事件で、警視庁大塚署は29日、杉並区西荻北5のS・元拓大教授(54)を傷害と銃刀法違反(不法所持)の疑いで書類送検した。
2007/8/12(日) 午後 7:16 [ 「公益」追求は倫理感の喪失から ]
(つづき)調べでは、S元教授は先月19日夕、自分の研究室でこの学生と同僚教授ら計4人で中東情勢について話をしていた最中に「中東情勢は命がけだ」と言って、室内のロッカーに入れていた脇差し(刃渡り約60センチ)で学生の腹を刺し、2週間のけがを負わせた疑い。4人は当時酒を飲んでいた。元教授、「中東情勢は簡単にわかるものではないという強い意志を示すために脇差しを学生の前に突き出したが、刺したことは覚えていない」と話しているという。書類送検の理由について、同署は「逃亡や証拠隠滅の恐れがないので逮捕しなかった」と説明している。S元教授は中東問題の専門家で、米同時多発テロについての著書もあり、テレビのコメンテーターもしていた。同大は先月27日「脇差しを学生に見せるなど教育者としてあるまじき行為あった」などとして懲戒免職処分にしている。[毎日新聞2002年1月29日](キ)
2007/8/12(日) 午後 7:18 [ 「公益」追求は倫理感の喪失から 産まれる? ]
前稿に引き続き、再びコメント失礼いたします。
本稿で取り上げられた次の文章について私は強く共感を覚えます。
「なぜ自民党が参院選に負けたより、本当はこっちのほうがより深刻な話なのだが」
政府の失敗、市場の失敗が言われて久しく、第三セクター論(市民社会論)も相応の時間を経て、日本では既に3万を超えるNPOが存在するにも関わらず、その活動基盤は脆弱で、公益法人改革は筆者様がかつての記事にてご指摘の様に、多数の問題を抱えている様に見受けられます。
つまり、公的セクターへのニヒリズム的思考または期待の有無や、第三セクターにおける一部の事件に関わらず、必要とされる第三セクターが現状の日本において、円滑に機能しないことへの憂いと、できれば根付いて欲しいという期待をこめて成功事例を対極に挙げていると読解しております。
私個人の力は非力の限りではありますが、こうした記事によって、第三セクターへの興味や想い、理解や協力、もしくは実践を行う者が増え、可能であれば繋がりを持つことで、変化の機会となることを、強く期待しております。
2007/8/15(水) 午後 1:27 [ Oro ]
Oro様 第三セクターでなければできないこと。その実例を挙げてみた、というのはご明察の通りです。ただ、悲しいかなその動きに手かせ足枷をはめようという動きの方が強い。手をこまねいている訳にも行きません。ぜひお互いに連帯して声を上げてゆきましょう。
2007/8/15(水) 午後 3:04 [ 入山映 ]
がんばってください。ただし、入山様の背後にある闇は御免被りです。いくら第三セクターと叫んでも、イロがつきすぎており、信用なりません。(キ)
2007/8/15(水) 午後 4:03 [ 奇麗事の裏にある影 ]
市民社会は、女性も含めた「人権」の上に確立されるということもお忘れなく(キ)
2007/8/15(水) 午後 4:16 [ 机上の市民社会論 ]
(キ)様 小生の「背後にある闇」とやらは、かつて小生が笹川平和財団に在籍していたことを指していらっしゃるのでしょうか。であれば、その財団で小生が辞した後何が起こっているかを把握され、闇の正体を認識されることをお進めします。
2007/8/16(木) 午前 0:43 [ 入山映 ]
お「進」めはお「勧」めの変換ミスであります。為念。
2007/8/16(木) 午前 1:15 [ 入山映 ]