造作された植物
札幌は初夏の花、 ライラックがいま満開です。
これから夏に向かって暖かさが増していくと思いきや、逆にひんやりとした天気が続いています。
まるで寒の戻りです。
この時期の冷え込みはリラ冷えといわれています。(リラはライラックのフランス語)
とても語感の良い言葉です。
リラ冷えや 睡眠剤は まだ効きて
札幌の俳人、榛谷(はんがい)美枝子さんが戦時中に詠んだこの句で、リラ冷えは初めて世に出ました。
何よりも人気作家渡辺淳一の小説『リラ冷えの街』で一気に定着しました。
リラ冷えが続いたといっても、気温は15度C前後、決して厳しい冷え込みではありません。
むしろライラックの花の寿命を延ばしているともいえます。
ライラックにはいろいろな色がありますが、リラ冷えには白い花がぴったりです。(写真:市役所前) ちなみにライラックの和名は、ムラサキハシドイです。
なんとなく垢抜けしてない名前で、和名を言う市民はほとんどいません。
まだまだ見られる桜
ライラックの花が咲き始めた先週、札幌市内では最後のサクラが満開でした。
サトザクラです。
エゾヤマザクラやソメイヨシノが終わった頃から、咲き始めます。
そして花の期間が長いのが特徴です。
ぽっちゃりとしたさくらで、花びらが八重になっていることから ヤエザクラとも言われています。
大阪造幣局の有名な「桜の通り抜け」は、このヤエザクラの開花時期に行われているようです。
サトザクラの名所、重要文化財の道庁赤レンガの前庭(写真)には、この時期サクラを楽しむ市民や観光客で賑わいました。
花びらが凝集して垂れ下がっている様は、まるでチアリーダーや子どもが運動会のときに使うポンポンみたいです。
品種改良
サトザクラは、山に生えている「山桜」に対して、人里に植えられているので「里桜」といわれています。
すべて園芸品種です。
従っていろいろな品種が作られています。
もっとも代表的な品種が、濃いピンクの 関山(かんざん)です。(写真右)道庁前庭や大通り公園のサトザクラの大半が関山です。
その道庁前庭にわずかに2本、白色の普賢象(ふげんぞう)が池の淵に植えられています。
ピンクに混じった白い普賢象はひときわ目立ちます。(写真下左)
花びらの中の雌しべが葉化して長く、普賢菩薩が乗った象の牙に似ているようだということで、この名がついたそうです。
先週 鬱金(うこん)という品種を、豪邸の庭だったという札幌郊外の公園で見ることができました。(写真上右)
道南のサクラの名所、松前城のある公園で、数年前に見て以来のご対面です。
白地に薄い緑が透かしのように入っており、とても品のいいサクラです。
サトザクラは人間が作ったものだけに中途半端なものはなく、皆それなりに特徴があります。
春でも紅葉
園芸品種は決してサクラだけではありません。
春だというのに、すでに紅葉しているもみじがあります。
ノムラカエデです。(写真右)
一般住宅の庭に植えられているのをよく見かけます。
紅葉が秋だけなのはもったいない、年中見たいものだという人間の欲望で作られたカエデです。
カエルはおたまじゃくしを経て、カエルになるのが当たり前です。
カエルの手、カエル手からカエデとなった元祖カエルも、芽が出たときから紅葉しているノムラカエデにはさぞびっくりのことでしょう。
これでもかというカエデに遭遇しました。
ノムラカエデはややくすんだ紫紅色であるのに対し、こちらのカエデは真っ赤な紅葉です。(写真左:札幌清田区)
名付けて チシオモミジ。
鮮血がそのままモミジの色になっています。
5月というのにこんなモミジがあるのかと思いました。
園芸植物には疎く、聞くと結構人気のある園芸種だそうです。
青空に映えるチシオモミジ、見事というしかありません。
この一角だけはすでに秋です。
自生種と園芸種
サクラやカエデは日本人が古くから愛した植物です。
それだけに人間の手が入り、自然ではありえない特徴のある品種が次々に生まれました。
サクラの鬱金やチシオモミジは、行きつくところまで行った傑作なのかもしれません。
しかし、余りにも見事すぎて自然の中ではどうしても違和感を感じます。
そして、どこかに無理をしているのではないかなという気持ちがよぎります。
もともと自然はそんなに格好の良いものではありません。
目鼻立ちがパッチリというのは美容形成の分野で、自然界と対極にある世界ということでしょうか。
まもなくスズランの季節です。
鈴のような花が目立つように葉の上から出ているのは、園芸用に輸入されたドイツスズランです。
自生しているスズランは葉の下に隠れるようにひっそり咲いています。
スズランが君影草といわれる所以です。
(写真:日本一の群生地、平取町、去年6月)
たまたま天皇皇后両陛下は先日訪問先のスエーデンで、植物分類学の祖リンネの墓をお参りされました。
リンネが作った二命名法による分類の中で、スズランの学名には日本人の名前がつけられています。
そのスズランは紛れもなく日本の自然界のスズラン、君影草です。
園芸植物が人の心を満たすために作られたものならば、自然界にも人の心を和ませる植物も、まだまだたくさんあるような気がします。 (寄稿=望田 武司)
望田 武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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