ジャック・アタリの記者会見才人ジャック・アタリが9日、東京・有楽町の外国特派員クラブでプレゼンをした。今回はマイクロ・クレジットの「プラネット・ファイナンス」の創業者として。50冊を超える著書のある作家、大学教授、ヨーロッパ復興開発銀行(EBRD)創始者、ミッテランの特別顧問などなど、フランスの知性を代表する彼が、今回は開発におけるマイクロ・クレジットの重要さを説く宣教師として日本登場である。彼にいわせれば「サラ金と同じ無担保の小口金融だが、違うのはこちらは所得創出のためのローンということ」だという。開発関係者の間では、ノーベル賞受賞者、ユヌス氏率いるグラミン・バンクの例をひくまでもなく昔からよく知られたコンセプトなのだが、それを一部の「開発」専門家の領域から解き放ち、広く一般の支持を取り付けようというのが彼の意図のようだ。考えてみれば「開発」専門家というのは、ごく一部を除いては、途上国の経済状態を悪くするためにこの半世紀ほど努力してきたようなものだから、目の付けどころはよいというべきだろうか。所得創出の事業を始めようにも資金を入手することができない、というのは途上国であれなかれ、スモール・ビジネスに共通の悩みだ。それに対処すべく生まれたマイクロ・クレジットが全世界に30億ドルあるが、そのうち25億ドルは途上国の国民がみずから工面したもので、開発援助として先進国から流入しているのは5億ドルにすぎない。恥ずべきことだ、とアタリはいう。貧困問題・世界情勢・フランスの現状彼によれば世界の三大問題は環境、暴力、貧困だが、中で最大のものは貧困だという。ただ、基本的には楽観的で、配分の問題(マイクロ・クレジットはむろんその一つ)にさえしっかり取り組んでいれば、将来は明るいと見る。「世界経済は年率数%で伸びているではないか。世界にあれほどの福祉向上をもたらした産業革命は成長率を1%から1.5%に向上させたにすぎない。インパクトの大きさは比べものにならない」。かつて、ヨーロッパの知性はユーロペシミズムの暗い予言で世界に影響を与えた。それがどうだ、この明るさは。「中国にも必ずや民主主義の時代は来る。強力な国家中央集権の後に民主主義がこない訳がない」。フランスの政局も「高い投票率、合理的な候補者選定、サルコジの勝利。すべて結構」。「移民流入に対して神経質になるのは誤り。流入を避けるのではなく、いかに引きつけるかこそ重要。そうでなければ人口減にどう対処できるというのか」そして一方、EBRDの将来方向が中央アジアを向いていることを全く隠そうともしない。「白人の責務」の再来などと揶揄するつもりはないが、カザフスタンで原発の燃料を少し手に入れたくらいで浮かれたっている日本とは野心の深さが違う、という感じがないではない。欧州イニシアティブあどけないアメリカ産の「企業市民」(corporate citizenship)と違って、欧州産のCSR(企業の社会的責任)が企業の本来活動そのものの規制と欧州基準の世界規模での適応を意図したものであることはよく知られている。アタリのマイクロ・クレジットにしてからが、慈善だったり「かたすみ」での善行などという意図は皆無である。10億人を超える途上国の人口を相手にしたビッグ・ビジネスに手を出さない法はないだろう。世界の残りの二つの問題である環境にだって、暴力にだってこれは有効なんだよ、という話だ。しかも、それを欧州企業人・政治家の知性と影響力を代表する人間が、はるか日本に来てまで宣教師をする。個別産業の将来展望や金儲け、きれいごとのキャッチフレーズを超えて、ここまでのどぎついメッセージをソフトに発信できる人を輩出できるのが欧州の強みだろう。文化的侵略に対する素養と歴史が違う。さて、日本はどこに行くものか。小泉さんが今度、立ち上げたシンクタンクがこれに匹敵するビジョンを提示してくれるとよいのだが。(入山 映) |
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2007年05月09日
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