6月のニセコ
北国の夏は短く、植物はわずかな期間に芽出しから開花・受精・果実・種子・落葉と、1年の仕事を終えてしまいます。
花が咲いたばかりと思ったのに数日後には散り、同じところではもう見ることができません。
しかし広い北海道では緯度や標高の高いところにいけば、低地ではとうに終わった花に再び会える楽しみがあります。
6月上旬、初夏の札幌を抜け出し春浅いニセコを訪れました。
峠の茶屋
札幌から1時間ほど車を南に走らせますと、定山渓を経て中山峠につきます。
標高1898mの羊蹄山がくっきり顔を出す絶好のビューポイントです。
あずま路の 富士の姿に 似たるかな
雲にそびゆる 後方羊蹄の山
明治時代、初めて北海道を訪れた三条実美は優雅な羊蹄山の雄姿にふれて歌を残しました。
以来羊蹄山は蝦夷富士といわれています。
この羊蹄山の麓の一角がニセコです。
好感度No1の花
中山峠で小休止をかねて、つい1ヶ月前までスキーヤーで賑わったスキー場裏側の雑木林に入りました。
ありました、ありました。
高山性の植物、 サンカヨウの群落です。
蓮のような大きな葉の上に可憐な白い花、数個つけています。
汗を拭き拭き山を登ってこの花に出会うと、大いに癒されるという花です。
この花が一番好きだという人が結構います。
清楚で可憐な花が無骨な山男の理想とする異性にぴったりなのでしょうか。
山男はこの花に出会うとなぜかサンカヨウとはすぐ言わず、イッカヨウ、ニカヨウ、サンカヨウと節をつけて呼ぶと聞いたことがあります。
愛されてるんですね、この花は。
ちなみにサンカヨウは「山荷葉」と書きます。
荷葉というのは蓮ということで、平地のハスに対して山のハスということでサンカヨウといわれているそうです。
納得の植物です。
残雪のニセコ
中山峠からさらに車で1時間、ニセコに到着です。
お目当ては神仙沼(しんせんぬま)湿原です。
神仙沼には毎年訪れていますが、6月は初めてです。
木道を歩いてササヤブを抜け、視界の広がるところにきますと、ひんやりとした風が頬をなでます。
日は照っていますが、吹く風は雪の上を通ってきたに違いありません。
この地域は標高700mちょっとです。
目の前のニセコの山々にはまだ雪が残っています。
高山植物
木道の脇には チングルマが顔を出していました。(写真左)
雪が融けてまもなく姿を見せる花です。
こんなに小さくても草本ではありません。バラ科の落葉小低木です。
ピンクの ショウジョウバカマも風に揺られています。(写真右)
酸性度の強い土壌では紫色の花をつけます。
これらの植物に混じってミズバショウが咲いていました。
全長5cmほどの超ミニサイズのミズバショウです。実にかわいい。
決して未熟児ではありません。
小さくても白い苞に包まれた棒状の花を立派につけています。
低体重児です。
満ちて生まれてきた立派なミズバショウです。
腰を落としてカメラを近づけてパチリ。
後ろから狭い木道を通る人が待っています。
あっ どうもすみません。
ここで立ち往生しては交通渋滞になってしまいます。
平地ではミズバショウの花はとうに終わり、芭蕉のような馬鹿でかい葉が水面を覆っています。
あれもミズバショウ、そして眼前の超ミニもミズバショウだとおもうと植物も面白いです。
近くの五色沼にいきますと、ガンコウランが岩肌にへばりついていました。
大雪山系では雪解けが始まると真っ先に花を咲かせ、
ひっそりと春を告げてくれる花だそうです。
大雪山ではいつも黒い実をつけたガンコウランを観察しており、花は見たことがありませんでした。
岩肌のガンコウランをよく見ますと赤い花をつけています。
ルーペで見ますと実にきれいな花です。
ひとつの植物でも実にいろいろな顔があることを実感します。
レッドリスト
神沼湿原の隣に大谷地(おおやち)湿原が広がっています。
深いササヤブで覆われ、行楽客はまず中に入りません。
この湿原はきわめて貴重な植物が自生している所として知られています。
フサスギナです。
氷河期時代の生き残りといわれている植物で、現在レッドリストに登録され、絶滅危急種に指定されています。
スギナの仲間ですがそんなに珍しいものなら一度見てみたいと思っていました。
しかし去年の秋は余りにもササが深く入れませんでした。
退職してニセコに住み着いたという自然ガイドの案内で見に行くことになり、北向きの斜面にまだ雪の残る湿原に降りました。
フサスギナは芽が出たばかりでまだ5〜10cm、まるでツクシのようです。
これが30〜70cmに伸び、茎の上部で葉のような枝を規則的に多くつけるそうです。
大家によりますと大谷地湿原は乾燥化が進んで、ササの天下となっており、何らかの対策がとられない限り、日本から姿を消すことになると心配していました。
6月のニセコは、雪が消えたばかりでした。
1ヶ月以上、時計の針を戻したようです。
これからタケノコ・ウドなどの山菜採りで週末は賑わうそうです。
札幌に戻ると半袖でもよいシーズンにはいりました。 (寄稿=望田 武司)
望田 武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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