恋の花・呪いの花
先日、北大構内でクロユリが見ごろを迎えていると地元紙が報じました。
早速、翌日行って見るとクロユリが群生して横向きに咲いています。
実は私は5月10日にも見に行きました。
そのときはクロユリらしき葉はありましたが、花はひとつも咲いていませんでした。
わずか2週間で様変わり、クロユリはタンポポなどに混じって咲いており、風に揺られて怪しげな雰囲気をかもし出していました。
北大のシンボル
高山植物のクロユリは本州では高地でしか咲きませんが、北海道では平地の湿ったところでも自生しています。
これまでに礼文島や釧路に近い霧多布湿原でひっそり咲いているクロユリを観察したことがありますが、群生して咲いているのを見るのは初めてです。
北大構内では明治から大正にかけてはあちこちにクロユリが群生していたようです。
それが大学の施設整備が進む中で昭和はじめには完全に消滅してしまいました。
幻の花を復活させようと一昨年、北大美術部の学生やボランティアが中心になって、ポプラ並木に近い一角に球根を植えました。
2年目の今年もクロユリは見事に花を咲かせ、新名所としてクロユリは北大のシンボルになりつつあります。
恋の花
♪ 黒百合は 恋の花 愛する人に 捧げれば 二人はいつかは 結びつく・・・
黒百合は 魔物だよ 花の香りが 沁み付いて 結んだ二人は 離れない・・・ ♪
作詞、菊田一夫・作曲、古関裕而の名コンビで戦後一世を風靡した黒百合の歌です。恋の歌です。
黒百合に想いを込めて、人に知られぬように好きな人の傍らにそっとおき、その人が何気なく手に取れば二人は必ず結ばれるということでしょうか。
黒百合は魔物だよ、花の香りが沁み付いて・・・と美化して歌い上げていますが、黒百合に鼻を近づけると二度と嗅ぎたくない悪臭がするのも面白いです。
花の美しさをたとえる言葉として可憐、清楚、高貴などさまざまな言葉がありますが、クロユリに関する限りそのような言葉は無縁です。
小首をちょこんとかしげて咲く濃い赤紫色の花姿はどこか怪しげであり、神秘的でもあります。
クロユリは人を狂わす恋の花、魔性の花といわれる所以でしょうか。
呪いの花
クロユリは北海道では恋の花でも富山県では呪いの花のようです。
越中・富山の佐々成政は籠愛していた腰元と小姓との仲を疑い、嫉妬心から二人を殺した。
身に覚えのない早百合は、「私の亡霊が立山にクロユリを咲かせたとき、佐々家は滅びるでしょう」と叫びながら息たえたという。
その後、成政は秀吉の正妻、北の政所に取り入ろうと、立山に咲く珍しいクロユリの花を献上したところ、不吉な花として逆に怒りをかい、佐々家は衰運の一途をたどる。
そして、早百合の予言どおり、成政は切腹、家も滅びた。
クロユリの花は成政を恨みながら死んだ腰元、早百合の化身なのでしょうか。
クロユリの花言葉は恋とともに、執念深さ、呪いです。
生まれ出づる悩み
明治後半から大正時代の一番の売れっ子作家といったら有島武郎です。
有島武郎は絵も好きで、美術部の創設に参加し、北大構内のあちこちに咲いていた黒百合にちなんで、サークルの名は「黒百合会」と名付けられました。
写真は札幌郊外の芸術の森に移設、保存されてる旧有島邸です。
明治の面影が残っています。
黒百合会の作品展を見て一人の少年が突然有島武郎を訪れます。
汚い中学校の制服の立襟のホックをうるさそうにはずしており、ぶっきらぼうに自分の書いた絵を見てもらいたいと、抱えきれないほどの絵を持ち込み、風呂敷の中から数枚乱暴に引き抜いて私の前に置いた・・・
礼儀をわきまえない高慢ちきな若者に、不快な思いをした有島武郎ではあったが、絵を一目見て驚かずにはいられなかった・・・
漁夫画家として生涯、日本海に面する岩内に住む木田金次郎と、有島武郎の初めての出会いであり、これによって彼の代表作「生まれ出づる悩み」が誕生しました。(小説のモデルは金次郎)
黒百合は漁師の子で粗暴な木田金次郎と大正天皇のご学友であった有島武郎を結びつけた縁結びの神だったかもしれません。
去年、岩内を訪れたとき郷土館の館長が、ロクに漁もしない金次郎は金がなくなるとあちこちに借金し、売れない絵を置いていった。
私の父は「大きくなったら金次郎のようになるなよ」と子どもにいうのが口癖でした。という興味深い話を聞かせてくれました。
極貧の中でも絵を捨てなかった金次郎の生活ぶりが伺えます。
金次郎は晩年、評価され、いまや立派な木田金次郎美術館が岩内に建てられています。
それにしても、交通機関の発達していない明治時代に、岩内から風呂敷一杯の絵を背負って何日掛けて札幌の有島の家を捜し求めてきたことでしょう。
金次郎少年のひたむきさと、どうなるかわからない怪しげな気持ちはクロユリに通じるものがあったのかもしれません。
クロユリをじっとみていると、単なる花では終わらない何かを持っている花だという気がするのが不思議です。
クロユリは絶滅危惧種のひとつ手前の希少種に指定されています。
いつまでも残ってほしい花のひとつです。
黒百合会は来年で100年を迎えるそうです。
来年はクロユリの咲く頃どんなイベントが催されるのでしょう
(寄稿=望田 武司)
望田 武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
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