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ニューヨークタイムズの7月8日の日曜版の社説で米軍の「イラク撤退の主張」が大きく取りあげられている。通常、ニューヨークタイムズの社説は、複数のテーマでページの半分を占めるが、この日は「本国への道」というテーマで一本だけという異例な扱いである。9日の同紙の一面からもイラクの悲劇が伝わってくる。それらを踏まえイラク問題の現状を述べることとする。 ブッシュ大統領の失策ブッシュ大統領の失策は、イラク侵攻に関し米国の明確な戦略と国際支援を得ることなしで行なったことにあるのみならず、イラクの選挙、憲法、米軍の増派など全ての解決策が裏目に出ていることにある。更に、フセイン政権が破壊された後、米国主導によるイラクの軍隊、警察による治安維持、そしてイラクの経済構造の支援を行なう義務が米国にあったにも拘らず、ブッシュ大統領は、イラク復興に向けた具体的な案を持ち合わせていなかった。何よりも米軍の死傷者が増え続け、開戦以来最悪の自爆テロが起こるという状況を放置していることにある。 ブッシュ大統領の失策により、キャピタルヒルとホワイトハウスが分断している。また、共和党内部の中心的存在からもイラク撤退論が浮上し、政治的な麻痺状態に陥っている。米軍が撤退することで、イラクの内戦、民族浄化、難民問題などの悲劇が予測される。同時に、米国の失策がイラクの悲劇を生み出しているとの事実から、米軍撤退を真剣に議論すべき時期が到来している。 撤退のメカニズム16万人の米軍、並びに何百万トンの軍事装備を撤退させるのは、大変な難題である。クウェートに向かう南部への道は、道路わきの爆弾の危険が伴う。空や海のルートを通じ撤退のルートが確保されなければいけない。また、北部のルートとしてクルドの領土を固め、トルコとの協力を進めなければいけない。撤退には少なくとも半年を要するので、撤退に関する政治的意思が今、求められている。イラクの内戦現在の米軍の軍事態勢では、激化しているイラクの宗派間の闘争を鎮めることは困難である。シーア派、スンニ派、クルド族のそれぞれの主導者が米国の撤退を厳格に捉えることにより、イラクの危機が実感されイラクの宗派間の和解に向けた具体論も期待できる。米国政府内には、イラク政府の優柔不断な態度に対する不満がくすぶっている。 イラクの主導者が米国の干渉や保証を信用しない風潮の中、ボスニアスタイルの分割論、換言すると、シーア派、スンニ派、クルド族のそれぞれの妥協による分割を行い、国連の監視の下で、イラクの復興を実現させる案も現実的オプションと一つとなろう。 国際社会は、イランに対し、イラク南部にイラクシーア派独立のための干渉を避けるような圧力をかけなければいけない。ワシントンは、イラクのスンニ派に代わってシリアのようなスンニ派の国がイラクスンニ派に干渉しないように説得しなければいけない。トルコはクルド族の領土にトルコ軍を送ることを避けなければいけない。 主にヨルダンとシリアに200万人のイラク国外難民とほぼ同数のイラクの国内難民が発生している。その難民問題解決のためには、イラクに隣接する6カ国(トルコ、イラン、クウェート、サウジアラビア、シリア、ヨルダン)の協力が不可欠である。特にサウジアラビアとクウェートの役割が重要であり、米国は、国際的な支援を確保するための難民危機問題の国際会議開催を行なうべきである。 4年4ヶ月前のイラク戦争開戦時には、フランス、ドイツなどの協力体制を得ることが出来なかったが、両国とも政治体制が変化し、イラク問題に対する新たなる国際協調体制を構築する環境が生み出されつつある。 ブッシュ大統領は、イラク問題の袋小路から抜け出すために、イランとシリアとの対話を進めなければいけないし、英国、フランス、ロシア、中国などの国連常任理事国をはじめとする国際社会との協調体制を再構築しなければいけない。 ブッシュ大統領とチェイニー副大統領は、米軍の撤退がイラクの内戦や国際テロを煽るとの主張をしているが、事実、米軍が撤退しなくても、これらの悲劇は既に始まっているのである。従って、現在、米国は米軍撤退という選択に直面しているのである。(中野 有)
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2007年07月11日
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