レクチャーが始まると、静まり返った満席の開場に、ドンッという音と、100万ドルの紙幣に見たてた紙が舞った。
7月27日、文京シビックホール(東京都文京区)で開催された、第18回英国科学実験講座クリスマス・レクチャー2007「数のミステリー」では、現代の最も高いレベルの知識、研究を持ってしても未だ解明されない自然、数学の謎のうち、解明に100万ドル(約1億円)の賞金がかかっている問題が紹介された。
28日と2日間に渡り、4つのテーマに別れたレクチャーが開かれ、その(1)「終わりなき数の不思議」と、その(2)「とらえどころのない形のお話」を取材した。
クリスマスプレゼントとして始まった講座
セミが鳴く真夏に行なわれるこのイベントの名前は、「クリスマス・レクチャー」。
季節外れのこの名前の由来には、伝統ある背景があった。
クリスマス・レクチャーの起源はイギリス。
その歴史は古く、1825年に“電気の父”として知られるマイケル・ファラデー(物理学者、化学者 1791〜1867)が、イギリスの子供たちに「科学」はいかに身近で、楽しいものかということを知ってもらおうと、子供たちに送るクリスマス・プレゼントとして始めたもの。
第二次世界大戦中の4年間を除き、昨年まで178回、毎年クリスマスの時期に開催されてきた。
毎年、その時代の世界的に著名な科学者が講師を務め、長い歴史の中では、「フレミング右手の法則」で知られるJ.A.フレミングなどが講師を務めたこともある。
由緒正しいこのレクチャーを日本でも紹介しようと、英国の半年後の夏休みに、日本で再現しているのが、今回18回目を迎えるこの「英国科学実験講座クリスマス・レクチャー」。
この日も、夏休みに入ったばかりの小学生や中学生が、両親や友人と数多く来場、開場前から長い列を作っていた。
今年の講師はマーカス・デュ・ソートイ教授。
オックスフォード大学数学科の教授で、フランス、ドイツ、イスラエル、オーストラリア各国の大学でも客員教授として招かれている。
2004年、英エスクァイヤ誌が選ぶ、英国で最も影響力のある40歳以下の人物100人の1人。
素数の発見者はセミ!?
1つ目のレクチャー、「終わりなき数の不思議」のテーマは素数。
素数を化学の元素に例えたソートイ教授は、「元素はすべての化学物質の基となり、化学反応を起こし化学物質を作り出す。同様に、素数というのは、全ての数の基になる」と、素数の特徴をわかりやすく説明した。
「素数を最初に見つけた」と紹介したのは北米のセミ。
他の数で割り切れない素数年数を周期とし、セミを捕食する他の生物の発生周期と重ならないように地上に出てくるセミの生態を、子供たちを舞台の上に呼んで説明。
子供たちをセミ役と天敵役にわけ、素数周期で地上から出てくるように立ち上がるセミは、他の周期で地上で待ち構えている天敵と、発生周期が重なりにくいことを説明。
自然界の中で何気なく出てくる素数には、まだまだ謎が多い。
数列の中に、素数が出てくるパターンには規則性がない。
17世紀にフランスの修道士がこの公式に近い方法(2n−1)を発見し、それを基に昨年9月4日には980万桁を越える、現時点でのもっとも大きな素数が発見された。
しかし素数を見つける完全な公式は未だ見つかっておらず、ソートイ教授はレクチャー(1)の最後に、100万ドルの問題として、「1000万桁を越える素数を最初に発見する」という問題を掲げた。
宇宙の形を科学する
レクチャー(2)の「とらえどころのない形のお話」では、ソートイ教授は大きなビニールの球体の中に入って登場。
この「球体」が、このレクチャーのテーマ。
シャボン玉がなぜ丸くなるのかという疑問から、球体の効率の良さ、強さを説明。
身の回りにある多くの「形」から、自分達の住む世界、宇宙の形へと話は広がる。
現在考えられている宇宙の形として、「4次元以上の超ドーナツ型」を紹介し、2方向へ向けて旅をしたときに、その経路が交わる回数で宇宙の形はわかるとした。
前に飛ばしたロケットが後ろから元の位置に戻ってくる仕掛けを使い、会場を宇宙に見立て、この「4次元以上の超ドーナツ型」を説明。
その昔から多くの人が想像し、しかし未だ解明できずにいるこの宇宙の形を解き明かした人にも、100万ドルの賞金が与えられると紹介した。
未来の数学者である子供たち
子供たちに科学への興味を持ってもらうことが最大のテーマであるこの英国科学実験講座では、自らも幼いときにクリスマス・レクチャーに足を運んだことがきっかけで数学者になったというソートイ教授が、チェス盤やサッカーボールなど、たくさんのわかりやすい実験道具を使い、世界の数学者を悩ませている難問を解説した。
ソートイ教授は、度々ボランティアとして子供たちを舞台の上に上げた。
その呼びかけがあるたびに、会場からは、元気良く、積極的にたくさんの手が上がり、この数学の難問に子供たちが興味を持ち始めていることが伺えた。
具体的な賞金問題を紹介することで、「自分達にもこの難問を解明するチャンスがあるのかもしれない」と子供たちに感じさせたように思う。
参加者は、「内容は難しかったけれど、難問を身近に感じた」「いろんなイベントが楽しかった」「自由研究に生かしたい」と感想を述べていた。
会場に来ていた子供たちの中から、何百年の謎を解き明かす研究者が出ることを期待したい。 (事務局スタッフ=伊奈 恵子)
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