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金融システム不安の解消に伴い新たな金融サービス展開が進む金融現場の「いま」について、金融行政に携わる人々、銀行や証券、外資など業界関係者の方々に、さまざまな角度から問題点や課題などを伺うシリーズ「金融サービス立国を考える」。
インタビュアは、政府の金融審議会委員で、シンクタンク・ソフィアバンク副代表の藤沢久美さん。
第五回は、オンライントレーディングのパイオニア・松井証券株式会社 松井道夫 代表取締役社長に、オンライン取引以降の金融市場、金融改革の展望と世界の動向などについて伺った。
海外市場と日本の温度差
藤沢:
――先日の海外でのIR活動を通しての雑感を。
円安についてだが、これは単なる物価の話では済まない問題だ。
外資が土地やゴルフ場を買う位で済めばいいが、このひどい円安を拠り所に、日本企業を買う動きがこれから表面化するだろう。これを否定した途端に、世界中の資本主義国から相手にされなくなる。
国内では、こうしたグローバル競争を否定的に語る向きもあるが、三角合併の話なども含め、それが資本の論理だ。
買われて困るのならば、真っ向から対策をとるべきであり、株の持ち合いのような原始的な対抗策では、いつまでも維持できるわけがない。
そんな事を繰り返していれば、世界中のマーケットからつまはじきにされて、投資を募ることもできなくなる。
そうした資本主義の論理を分かっているかどうかで、これから差がついていくだろうと感じている。
海外の機関投資家は、投資を極めてシビアにやっている。
投資は特殊なことではなく、海外では国家が行っている。
あの中国ですら、投資が最も重要であるとして、例えば国の金でアメリカの企業の株を買っている。
シンガポールの投資政庁や、オイルダラーを使った投資政庁、いわゆるSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド)がありますよね。――政府の資金で投資ファンドを作り、どんどん投資していく。
数百兆円単位のヘッジファンドに比べたら数十兆円と、まだまだ小さな規模かもしれないが、国だ民だと言っている場合じゃない。
世界を見れば、投資利回り10〜20%という世界で、熾烈な競争をしている。
その中で日本の10年国債2〜3%と言うのは本当に常識外の話だ。それでも続けばいいが、金利が上がった途端に債権価格がどれ位暴落するか計算してみたほうが良い。なぜ国債が安全だと言えるのか。
海外のファンドマネージャーからは、日本の投資家は本当に考えられないと言われているが、こんな事を続けていれば、日本の国民は本当に不幸になる。
日本は金融を勉強して、もっと世界を知った方がいいのではないか。
この数年であの中国がどれだけ激変したか。すさまじい変化だ。
世界の市場、ニューヨーク、ロンドンと言っている間に、東京市場は田舎の市場として取り残されかかっている。
シンガポールや上海が振興してくれば、東京市場は相手にされなくなる。
かなりの人たちがそういった意識を持ってやっているが、国民的なコンセンサス、認知を前提にして果敢に行動しないと日本は沈んでいくと、本当に思う。
自覚と危機感を持って言うべきことを言い、行動すべき所は行動しておかなければならない。
『組織』から『個』へのパラダイムシフト
藤沢:
――日本経済も激変の中にあるということだが、21世紀は何が違いどう変って行かなければならないのか。
情報革命が起きている中で、個人の多様な価値観や生き方を認める社会になってきた。バラエティに富んだ個人を認める社会、という意味では日本も豊かになってきたと言える。『個』というものを中心とした社会の仕組みづくりに意識して取り組んでいくことが必要だ。
意識しないまでも、最近の社員の会社に対するロイヤリティや働き方などを見ていると、号令をかけられるまでも無く、各々が『個』を意識した行動を始めているように思う。
こういったパラダイムの転換が情報革命と同時に起きようとしている。
情報革命とは、無数の影響力の弱い『個』がネットワークで結び合って力を持ち、社会の中心になるということ。
産業革命など比較にならないほど大きな革命として、現在進行形で起きているということを痛切に感じている。
藤沢:
――組織に属するというのは、より集まって安心したいという一面も持っていると思う。『個』が中心となるこれからの社会のあり方を考えると、『個』はもっと強くならなければならないということか。
生活が苦しい状況では、組織による事で豊かになろうというシステムで成り立ってきたが、衣食住が足りた今、『個』が組織に求める物は変わってくる。勿論、組織がバイアスをかけるような形で束縛すれば、個人は強烈に反発し離脱しようとするだろう。
一方で、従属せず主体性を持ち続けて生きるというのは、かなり疲れるものだ。組織に身を任せる従属的な立場というのは、ある意味、楽ではある。
しかし総じて見れば、主体性を持った生き方を選ぶ人の方が多いだろう。主体性を持った『個』を中心にネットワーク社会を作りあげていくという現在の方向性は間違っていないと思うし、実際そのような動きはいたるところで起きている。
注意すべきなのは、主体性をもった個々の間でネットワークを作る中では、必ずフリクション(摩擦)が発生する。
例えば、個人に対する誹謗中傷がネットワークを介在して制限無く拡散していくような問題も発生しており、こうしたネットワークと人間の最も暗い部分から目を逸らし続けると、とんでもない社会が現出してしまう。
誰もネットワーク社会には経験がないので、何が良くて何が悪いのか、常に修正を繰り返しながら作り上げていかなければ、今度は個人がネットワークに埋没し、新たなファッショ社会を作り出す事にもなりかねない。
世界が新しい局面を迎えたのは確かな事実であり、ビジネスの上でもそれを強烈に意識しなければ、これからの時代には対応できない。
アナログもデジタルも選択肢に過ぎない
藤沢:
――時代を大きく変えていくためのツールであるインタ−ネット、これを使っていち早くビジネスをされてきたわけだから、人が良い形で進化していくための色々な方法を考えてこられたと思うのだが、『オンライン+金融』が人間の価値観や自律する力をサポートするビジネスとなり得るか。
選択肢の一つとして個人が使い分けすればいいのではないか。
デジタル社会、アナログ社会という言い方はあるが、どっちかひとつになる、もしくはアナログ社会からデジタル社会へ移行するというのは嘘だと思う。人間には両方必要だ。
デジタルが強調されればされるほど、逆にアナログも強調されていく。
アナログというのはある意味、『感性』だ。
『美しい』『心地よい』といった、個々によって感じ方の違う、正解のない『感性』の世界。そういう ファジーな世界を前提にした世の中の方が、『個』の幸福感は続くと思う。
そういう意味では、21世紀というのは、アナログの、感性の世界ではないかと思う。
オンラインに絞った松井証券のビジネスモデルは、アナログの世界の対極にあるじゃないかと言われるけれども、私はアナログの世界を今まで否定したことは無い。
むしろをそれを強調したいが為に、デジタルでできるものは我々が全部引き受けるから、その余力でもっとアナログの世界を充実させてほしい。デジタルで省力化できるものをアナログに費やすほどもったいない話はない。
そういう気持ちで、デジタルの世界に特化するということをやってきたので、感覚的には、私はアナログを最重要視する人間のひとりだ。
そういう意味では、これからビジネスモデルを色々作っていくに当たって、アナログとデジタルの両方を意識しながら、顧客中心主義で決定していく。
企業の論理の周辺に顧客を置き、囲い込もうとする『顧客第一主義』の時代は終わった。顧客を中心におき、選択肢の一つとして選ばれる企業になるのが、松井証券が提唱する『顧客中心主義』だ。
時代が変わってきて、これだけのパラダイムが展開しているので、経営者としてやりがいを感じている。
全く新しい時代に入って、ビジネススクールで教えている過去の事例は、反面教師としてのケーススタディでしかなくなった。
これからは、自分で世の中のベクトルを感覚的に掴み取って、あたかも『絵を描くが如く』感性を持って経営するというのが、これからのビジネスの仕方ではないかと思う。
(事務局スタッフ=経塚 佳子)
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