ヨーロッパアルプス行脚 (上)
〜エーデルワイスを求めて〜
ヨーロッパアルプスといえば多くの人はスイスをイメージする。
けれど隣国のオーストリアも3000m級の山々が連なるアルプスの本場である。
人気のあるスイスが俗っぽくなったといわれているのに対し、オーストリアにはチロルを中心に、手付かずの素朴な自然がよく残されている。
かつてチロルの野山を散策したとき、放牧してある牛の糞の臭いが風に乗ってあたりを支配した。
ここでのびのびと草を食んでいる牛からは、BSE(牛海綿状脳症)はまず出ないなと思ったことを思い出す。
この夏、同じオーストリアでもチロルとは反対側のアルプス東側を2週間ほど訪れた。
そしてアルプスの花を求めて積極的に野山を回った。
(写真:岩場に生える カンパヌラ キキョウ科)
エーデルワイス
アルプスの花といえば、まずサウンドオブミュージックと連動して エーデルワイスが思い出され、ぜひ本場で見たいと思った。
けれど当地に来てエーデルワイスはそう簡単には観察できないことがわかった。
乱掘盗掘で一般的な観光コースではもう見られないためだ。
日本でもエーデルワイスと同じ仲間として エゾウスユキソウ(礼文島) オオヒラウスユキソウ(渡島半)ハヤチネウスユキソウ(岩手県早池峰山)などが知られているが、いずれも絶滅危惧種として手厚い保護を受けている。
これらの植物は植物園では見ているが、自然の形で生育しているのを見たことがない。
なんとか本場のエーデルワイスが見れないものか、富士山より22m高いオーストリアの最高峰 グロースグロックナー(3798m:写真)に氷河を見に行ったとき、現地人ガイドに拙い英語を並べて尋ねてみた。
何度も聞くのでうるさい客だと思ったかもしれない。
しかしイエスともノーとも言わない。
何か言ってるようだけど私の理解の限界を超えている。
氷河を見て麓におり、教会を見学したとき突然地元ガイドが
「コングラツュレーション」と言って私に抱きついてきた。
そして分厚い唇でキスをした。
突然のことで何が起きたかさっぱりわからず、慣れないキスに襲われて私の眼鏡は外れたが、かろうじて鎖でつながっていた。
ガイドの手にはエーデルワイスがあった。
そのエーデルワイスを私にプレゼントしたいという意思表示であることがわかった。
こんなところにエーデルワイスがあるのかと思った。
教会の裏には墓地があり、十字架とともに墓地は花に埋まっていた。
ガイドは墓地に植えてあったエーデルワイスを1本もぎ取ってきたことがわかった。
エーデルワイスを見れたことはうれしかった。
けれど墓地のエーデルワイスか・・・
岩陰にひっそりと咲く自然なエーデルワイスを見れないものかと思った。
数日後、4人で1700mほどの山に行った時、対面することができたのには感激した。(写真)
少し盛りを過ぎており純白ではなかった。
「な〜んだ、これがエ〜デルワイス!」
どんなイメージを抱いていたのだろうか、
同行した3人の女性は期待はずれの言葉を口にした。
エーデルワイスはもともとそんな派手な花ではない。
高さが10cmほど、白い軟毛が綿毛のように密生し、上部に星状の頭花をつけるロマンチックな花だ。
エーデルワイスは乙女の生まれ変わりで、アルプス男がその白い花を帽子に飾るのは、最も美しい乙女を妻に迎えたいという思いの現われだという。
がっかりした女性は「私のほうが美しいわ」と年齢を考えず思っただろうか。
エーデルワイスとともにアルプスの名花といわれる アルペンローゼ(ツツジ科)もすでに終わりかけであったが、観察することができた。(写真)
高山植物
ところで高山植物って何だろう。
高い山に生育しているものはすべて高山植物だろうか。
去年北大で植物学の坐講を聞きに言ったとき、講師の農学部助教授が(いまは准教授とかいうそうです)
「造山運動で平地が高くなったところで進化した植物」と定義づけた。
なかなか面白いこと言うじゃない、と思った。
新進気鋭のこの女性植物学者、いかにも学研の輩らしい合理的表現でさらに言葉を続けた。
「具体的には林がなくなる森林限界の上から万年雪の下までに生育している植物」が高山植物だという。
本州での森林限界は2,500mぐらいだが、緯度の高い北海道では1500mも登ると、もう樹林帯はない。
そんなことを思いながらオーストリアの山々を実際に歩いて、当地では1800m~2000mあたりが森林限界かなと推定した。
(写真:1800m地点の山)
森林限界に達した地域では低温で雪多くて風強い。
また紫外線も強くて土壌が未発達というのが特徴だという。
こうした厳しい環境で育つ高山植物は、背が低くて地面を這い、毛が生えているのが多い。
小さい割には花がきれいで大きいのは虫を誘うためで、化粧する人間と同じ心理だ。
また色が原色なのは強い紫外線を受けるためという。
アルプスの花
2週間の滞在期間中、大雪山系には見られないアルプス独特の花を堪能した。
左:トラスピ・ロトゥンディフォリウム(アブラナ科)これ以上高いともう植物が生えないという高山の岩礫地などに生育。
2400m地点で撮影。
中:パルナシア(ユキノシタ科) 日本のウメバチソウと同じ
右:リナム・ドロミチカム (アマ科)光沢のない落ち着いた黄色
左:アストラアンティアか?(セリ科) とても精巧
中:ディアントゥス・アルピナス(ナデシコ科)日本のオヤマナデシコの仲間
右:エリンギウム・アルピヌム(セリ科)一見観葉植物に見える
雪解けの6月から8月までの短い期間に花を咲かせ、種をつけるのだから結構忙しい。高山植物の命ははかない。
カメラ技術が悪くて焦点があってない植物も結構あり、惜しまれる。
なによりも、この花何という花?
現地で購入したドイツ語の植物図鑑からラテン語の学名を導き出し、日本の植物図鑑と照合するのに相当なエネルギーを要した。
けれど、ひとつひとつ同定していく時間は至福の時間で、牛の反芻胃のように帰国してからもう一度アルプスの花を堪能した。 (寄稿=望田 武司)
望田 武司(もちだ・たけし)1943年生まれ 新潟県出身
1968年NHK入局 社会部記者、各ニュース番組デスク・編責担当
2003年退職し札幌市在住、現在札幌市の観光ボランティアをしながら自然観察に親しむ。
|