過去に起きたインフルエンザやSARSの感染で意図的に学校閉鎖をした場合やストライキや冬休みがたまたま流行期にあたった時の感染者の推移から、学校閉鎖の効果を推測する論文があります。このレビューでは、その中からいくつかの例を挙げて、解析手法の問題点などを挙げつつ閉鎖の効果について示唆される点を分析しています。著者は数理モデルはあまり評価していないようですが、後半の労働力の損失における計算には数理モデルが使われている場合があります。数理モデル研究:研究者によって設定する条件がまちまちなので結論もばらつきやすく、学校閉鎖における効果を議論するような論拠を提供するほどではない。その代わりに、過去の季節性インフルエンザや過去の新型インフルエンザの流行における疫学調査の結果を注意深く再検討することにした。*数理モデル研究による学校閉鎖の効果の検討は、学校閉鎖時の罹患率、1人の子供がクラス内で感染させる人数、潜伏期間など様々なファクターを設定し、それを元に感染拡大のシミュレーションをするのが一般的な手法です。そこから得られた数値が実際に学級閉鎖をした学校での動きと合うのかを検定し、合わない場合はファクターを修正する・・という流れのようです。 *このレビューを書いた著者らが過去の論文を選んだ基準は、PubMed と ISI Web Knowledge 4.0 で1950年1月から2009年12月までの英語で書かれている論文を influenza + “non-pharmaceutical” or “community mitigation” or “social mitigation” or “social distancing” or “school closure”という条件で検索し、全ての要旨を読んだそうです。ここから学校閉鎖に関する一次的なデータを示している75論文を見つけて、著者らの選んだ9論文を加えて再解析し、公的な施策としての学校閉鎖を対象にした19論文を選んでレビューの参考資料としたそうです。
2008年の香港における学校閉鎖の例:2008年3月の香港では<季節性>インフルエンザで2名の児童が亡くなったことが報道されてから、幼稚園(kindergarten)と小学校が2週間閉鎖された。閉鎖の時期は感染拡大が最高になった直後で、閉鎖後に患者数の感染が見られた(図1)。単純に罹患率(attack rates)のみを見ると重要な効果があるように見えるが、インフルエンザの感染拡大がピークに達していた場合は、このような現象は<学校閉鎖のような>介入をしなくても期待出来る。実際、図1では2008年(学校閉鎖があった年)のピークと2007年(学校閉鎖が無かった年)のピークを並べてみるとインフルエンザ様症状で医療機関を訪れた人の推移には明確な違いが見られなかった。* 図1は引用された論文(Cowling et al, 2008)には含まれていなもので、転載に関する記述も無いので、著者が独自に作成した図と思われます * 引用された論文(Cowling et al, 2008)によると、2007年〜2008年の香港で流行した株はclosely related to A/H1N1/Brisbane/59/2007, A/H1N1/Soloman Islands/3/2006-like, A/H3N2/Brisbane/10/2007, B/Yamagata/16/88-like, and B/Malaysia/2506/2004-like.だそうです。 2000年のイスラエルにおける教師のストライキの例:イスラエルでは1999年12月の最終週からインフルエンザの感染拡大が始まったが、拡大期の2000年の1月16日〜28日に教師のストライキによって国全体の小学校が閉鎖となった。学校閉鎖前の2週間と閉鎖中の2週間の患者数を比較したところ、内科医(physician)と救急医療部門(emergency department)の週あたりの受診者数は22%減少し、呼吸器系の感染症やウイルス感染と診断された人も43%減少した。 しかし、2008年の香港での例(上)からも分かるように、季節性の流行のような不安定な動きをするのが本来の性質である感染症の場合、単純な罹患率の比較は間違った結論につながる可能性も考えられる。 とは言え、ストライキが終わったところ、呼吸器疾患で医療機関を受診する数は増えたので、効果がある可能性も考えられる。この研究は他の年度との詳細な比較が必要である。 1984年〜2006年のフランスの学校休暇の例:フランスでは一年に3つの休暇期間があるが、地区(zone)によって休暇の時期が異なるので、21年間の地区ごとのインフルエンザ様症状の例数と休暇時期との関係をデータをマルコフ連鎖モンテカルロ法で解析した。休暇中の子供は平均すると他人への接触が25%減少するが、大人との接触頻度に変化は無い<この部分は引用された論文の成果なのか過去の調査結果なのか不明>。この傾向を利用して流行のシミュレーションをしたところ、休暇は季節性インフルエンザの感染の1/6を抑制していることが明らかとなった。人々が免疫を持たないような感染症の流行の場合、準備的学校閉鎖(proactive closure)を行えば13〜17%(1/7)の感染者数を抑制するだけでなく、ピーク時の罹患率を38〜45%減らすという大きな効果が期待出来ると述べられている。 しかし、季節性インフルエンザの解析結果をパンデミックインフルエンザに当てはめることには限界がある。この研究例はあくまで休暇の効果であって、休暇中は海外旅行に出かけるなど他の活動は行っている。学校閉鎖が長引くと子供達は家族内や近所の子供とより交わるようになるだろうし、働いている保護者は預け合いをするだろう。この例から導き出されることは、学校閉鎖の間にその代償となる活動があれば累積的な罹患率やピーク時の罹患率も減らす効果が期待されることだ。* フランスの学校休暇は3つの地域で分かれていて、春休みと冬休みは時期がずれていて、夏休みは共通だそうです。→http://blogs.yahoo.co.jp/konishonwasampon/15622237.html * マルコフ連鎖モンテカルロ法は統計手法の一つです(私にはそれ以上のことは理解出来ていません) 1957年のインフルエンザ<アジア風邪、H2N2>大流行時のフランス:1957年の大流行時、フランスでは地域ごとに徐々に(in a piecemeal way)学校閉鎖が行われた。1957年のフランス国内の新聞では当時の公衆衛生に関わる機関が学校閉鎖で<社会不安の増大による>危機(crisis)を招くことを心配していたことが報道されている。学校閉鎖の判断は遅く、50〜75%の生徒が具合が悪くなってから決められることが多く、この決定は地方ごとにされた。なぜなら政府は明確で単純な戦略というものは持たず、<学校閉鎖における>基準(measure)を実施することにも及び腰だったからだ。このような遅い介入では効果は無かったと判断されている。 1918年のインフルエンザ<スペイン風邪、H1N1>大流行時のアメリカとオーストラリア:1918年の大流行ではアメリカの各都市は学校閉鎖を含む介入を行っている。これは教会の閉鎖、集会の禁止、マスクの着用命令、感染者の隔離、消毒、その他衛生学的手法(hygiene measures)と同時であり、介入のタイプと時期は都市によって異なる。3つの研究グループはこの違いが致死率に表れるのか分析したところ、3つのグループとも早く継続的な取り組みを実行した都市で効果が高いという結論であった。これらの介入では<インフルエンザ以外も含む?>人口全体の死者数を10〜30%減らすという中程度の効果と、感染ピーク時の死者数を大幅に減らす効果(一部の都市では50%程度)であった。 学校閉鎖が他の方法と併用されているため、学校閉鎖そのものの効果を推測するのは難しい。唯一言えることは、学校閉鎖と集会の禁止の組み合わせが最も死者数を減らしているように見えることだ。しかし一部の都市では学校閉鎖をしたにも関わらず、死者数の減少は10%程度に留まった。オーストラリアのシドニーでも学校閉鎖を含む公衆衛生的な対処法で累積的な(cumulates)罹患率を38%減らしたと計算されている。*市民生活全般に厳しい行動制限をかけたセントルイスは、制限が緩かったフィラデルフィアより死者数が少なかったことから「セントルイスの英断」と呼ばれています。→http://influenza.geki-yasu.org/inf4.html(情報は良くまとまっていますが、私はマスクの通販が好きな訳ではありません) *スペイン風邪の時のオーストラリアは行動制限だけでなく入港制限も厳しく行っています。 2003年香港のSARSの例:SARSが発生した時、様々な社会的隔離が行われた。その一部は政府の命令によるものだったが、大部分は市民の配慮であった。学校閉鎖、集会の中止、公共の場所でのマスク着用に加え、人々は可能な限り自宅にいた。この間、検査で確認された(laboratory-confirmed)インフルエンザや他の呼吸器疾患を起こすウイルスは検体が多数持ち込まれたにもかかわらず過去5年間に比べて異常なほど少なかった。 ただしこの方法も1918年のインフルエンザ同様に学校閉鎖そのものの効果を示すものではない。10/17 追記:香港の学級閉鎖をした年としない年の感染者数の推移のグラフを挿入しました。 |
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