想いがかさなるその前に・・・

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小説 (17)

居間に戻り座って有津と顔を見合わせた優一郎は
「何も聞かずに出立した方がよさそうですね・・・。」
と有津に言った。
「そうだな、そうした方がよかろう。これ以上、そなたがいろいろと知ってしまうと、旅をする意味がなくなるやもしれぬ。知らずに発った方がそなたのためだと思う。」
空になった湯呑を膝の上でもてあそびながら有津がため息交じりに言った。
「優一郎さん、荷の準備ができましたよ。」
玄関の方からお美代が声をかけて来た。
「はい、小母さま、ありがとうございます。」
立ち上がりながら優一郎はもう一度有津の顔を見た。もう、いつもの有津の顔であった。
何事もひょうひょうとしていつも穏やかな顔つきだった。お美代の方はもう涙目になっていて、優一郎はそっちを見れず、
「小母さまも私が戻って来るまでお変わりありませんように。」
と俯いて荷物を体に背負いながら言った。
「せめて私がお婆さんになる前に帰ってきてくださいね。」
泣き笑いの顔でお美代が言うと
「何を言うか・・今さら・・・。もう孫もおる身でお婆さんも何もないだろう。」
有津が言うと
「そういう意味ではありませんよ、お前さま。」
お美代がころころと笑った。
「良かった、小母さまの笑顔が見れて。」
優一郎は笑って言った。
帯を締め直し草鞋の紐を結び手甲・脚絆を付けると、もうどこから見ても旅の侍だった。
「優一郎さん、御前がこれを。」
樋雲が布に包んだ長いものを差し出した。優一郎は中身を見た。
「これは・・・。」
「何かあったら、対処をせよ。これの使い道はそなたに任せる。」
有津の愛用の大刀であった。優一郎は有津と養子縁組はしてないので武士ではない。身分は無いに等しい。しかしある程度剣がたつと、大刀を持って歩く者のいる。もちろん真剣である。そのうちにそれなりの武家に養子に入り、身分を武士とするのだが、まだそんな身分がないのにここで大刀を持たされるとは思っていなかった優一郎は戸惑った。
「いいのでしょうか、私がこれを持っていても・・。」
「よいよい、身分証には有津家の縁の者として書いてある。そなたはそれの使いこなしも修業した方が良いな。」
「承知しました・・。かたじけない。」
樋雲からありがたく受け取った。
「達者で行け。他の事は気にせず、自分の修行のつもりで旅をせよ。狗神の事も、気にせずとも良い。もし、出会ったなら、親の言葉を伝えることだ。後の事は狗神自身の問題なのでな。」
「はい。では行ってまいります。」
「優一郎さん、お気を付けて。つつがのうお出でなさいませ。」
樋雲が門まで送りながら言った。
「ありがとうございます。樋雲さまも、お元気で。」
頭を下げて門の脇戸を開け、外に出た。忠助がそこに立っていた。
「優一郎さん、これはいろいろな薬でな。風邪気味の時や、打ち身なんかの時に、いいものを見つくろって入れて来た。面倒でも持ってお行きなされ。」
「忠助、ありがとう。家の事、お手伝いできなくなって、忠助も仕事が多くなるけど・・・。」
「大丈夫ですよ、まだ、体は利きますから。それこそ、わしが老いぼれる前に帰ってきて下さいまし。」
「分かった。ありがとう。」
優一郎はこうして京への旅に出発したのである。

小説 (16)

有津家の用人樋雲那十太がお美代を背中にかばったように武士と対峙していた。
「これは、狗神どの、こんな早くに、どうされた?」
驚いた声を出して有津が問うた。狗神と呼ばれた武士は赤くなった目で有津を見、「狗神」と聞いて有津の後ろから顔をのぞかせた優一郎を見た。その途端、
「貴様、狐野か!」
と怒鳴り式台から飛び跳ねて優一郎に迫った。有津が優一郎をかばうように狗神を押しとどめようとしたが、狗神は狂ったように優一郎の胸倉をつかんだ。
「貴様、狐太郎をどこへやった!」
「は?狗神をですか?」
優一郎はこの人が狗神狐太郎の父親だと理解した。有津と樋雲が無理やりに狗神狐左衛門を優一郎から引き離した。
「とにかく、おちつきなされ、狗神どの。」
有津はお美代に水を持ってくるように言い、樋雲が狗神の大刀を取り上げた。狗神はまだ息を荒くしていたが目が正気に戻ったように落ち付いてきた。お美代が持ってきた水を飲むと、
「すまぬ・・・。かたじけない。」
と肩を落とし式台に腰かけた。
「御子息がどうかなさったのか?」
有津が尋ねた。狗神はしばらく無言で座っていた。
「狗神なら、昨夜王子の入口あたりで出会いましたが・・・。」
と、優一郎が言うと、狗神狐左衛門は身を乗り出すように
「昨夜、倅に会ったのか?」
と声をあげた。
「はい。ただ、ちょっと言葉を交わしてすれ違っただけですが・・。」
「やはり貴様が家出をそそのかしたのであろう!」
狗神狐左衛門がまた立ち上がり優一郎に飛びかかろうとしたのを、樋雲が抑え有津が声を荒げた。
「狗神どの!いくら何でも、他家に早朝から怒鳴りこむのは礼儀知らずであろう!優一郎に話があるなら筋道を立ててお話なされ!」
狗神はまた正気に戻ったように二、三度瞬きをすると少し俯いた。
「倅が家を出たのだ。今朝になって気づいて・・・。前から様子がおかしいと思っていたのだが、真剣にあれと話をしていなかったのでな・・。前に倅が狐野が同じ半獣だと親しそうに言っておったので、江戸を出るのを相談していたのかと・・・。」
「狗神どの、その話は・・。」
有津が慌てたように話を遮った。
「ひとまず、帰宅されてはどうかな。家人も心配して居ろう。」
狗神は顔を上げ、一同を見回した。
「そうだな。お騒がせ申した。すまぬ。」
と乱れた着物を直した。樋雲が大刀を差し出すと素直に受け取り
「旅に出られるのか、狐野は。」
と、今度は悲しげに優一郎を見た。
「はい。京まで参ります。」
「そうか・・達者でな。東海道を行くのか?」
「はい。そのつもりでおります。京まで一番旅をしやすいそうですので。」
優一郎は怒鳴られ、胸倉を掴まれたことなどなかったかのように親しく言った。
狗神は
「もし・・・。」
涙声になって言い淀んだが、
「もし、倅に会ったら、何でもいい、便りをくれと伝えてくれぬか。出来れば帰って来てくれと。倅が東海道を行くとは限らぬが・・。」
鼻をすすりながら優一郎に言った。
「承りました。狐太郎どのに出会ったなら、必ず。」
優一郎は軽く頭を下げた。
「有津どの・・・。わしは貴殿のように倅に接すれば良かったのかのう・・・。さすれば、この狐野の様に倅もなったのか・・・。」
「狗神どの、後日でもまたお話申そう。今日のところはこれでお引き取り願おう。」
有津が言うと狗神はがっくりと肩を落とし、ふらふらと門を出て行った。狗神の家は王子でも駒込に近く、よほど慌てて来たのだろうと思った。後ろ姿がなんとも寂しそうに見えた。優一郎は狗神の話の内容から、狐太郎も半獣だったのかと思った。見かける度に、堂々と狐の姿をしていて、とても見かけからは半獣には見えなかった。むろん夕べ以外に、近くにいて話もしたことは無く、道場ごとの試合や街で出会う時に目が合うくらいであった。自分の事を親しそうに話していたとは意外だった。狐太郎も心の中では悩んでいたのかと何となく親しみが湧いてきた。

小説 (15)

朝早くに雨がやんだ。お美代が早く起きて優一郎の髪を結い直してくれた。その時もお美代がずっと涙ぐんでいるのを優一郎は見て見ぬふりをしていた。新しい肌襦袢と下帯も、昨夜夜なべをして縫ってくれたらしい。優一郎は旅立ちを「明日」と言ったのを少し後悔した。旅の準備をするのは自分だけではなく家の者も大変なのだと思いなおした。それでも今日発ちたいのは変わらない。朝餉を済ませると有津の部屋に行った。
「おはようございます、小父さま。」
「うむ、おはよう。」
少し笑った顔で有津が挨拶を返した。
この人はいつもそうなのだ。怒っているところをほとんど見たことがない。叱られた記憶もほとんどない。いつもいつも優しく見守っていてくれた感じがする。優一郎はそういうところに、自分との血のつながりのない親だと実感していた。本当の親ならもっと叱りもすれば怒りもするのだろう、と。
「あのな、優一郎。」
有津は優一郎に座るように目で指図しながらゆっくりと話を始めた。
「半端者は半獣と言ってな・・・。どこも歓迎される者ではない。」
と、つらそうに言った。
「旅の間もおそらくはどこに行っても冷たくあしらわれるだろう。」
優一郎は俯いてしまった。
「旅の手形と身分を証明する書状だ。」
有津は一式を優一郎の前に差し出した。
「ありがとうございます。」
すこし低い声で優一郎は答えた。
「そんなに落ち込むな。若い頃は誰でも苦労するものだ。」
有津は明るく言った。優一郎は思わず顔をあげて有津の顔を見た。
「そなたが帰って来た時は、立派な人獣になってるであろう。」
「小父さま・・・。」
「そのためにも、つらいことも我慢して旅をするのだ。宿でも道筋でもどこでもな。宿で泊めてもらえなかったら野宿をすればいい。腹が減ったら茶店で食い物を買えばいい。今度の旅は人の心を感じる旅なのだ。わしは少しそなたを優しく扱いすぎたかもしれぬ。そなたが傷つかぬよう、つらい思いをする事の無いよう、かばい過ぎたやも知れぬ。しかしそなたが一人前の人獣になるためなら何でもしてやろうと思う。そなたの親の代わりに・・。」
「私の親?」
思わず優一郎は声が出た。
「小父さまは私の親が誰だか御存じなのですか?」
有津は慌てたように視線をそらした。
「何だか表が騒がしいのう・・。」
優一郎は有津がわざと話題をそらしたのかと問いかけようと口を開いたが、その時に本当に玄関の方が騒がしくなった。
「こんなに朝早くに・・・。」
と、有津が立って行くのに優一郎も後をついて玄関に出た。そこには取り乱した風の武士が大刀片手に立っていた。

小説 (14)

有津は話したものかどうか迷ったが、黙っている事にした。銀月尼の書状にもあったのだが、優一郎の半端者の件はこの旅の目的の一つでもある。銀月尼もその事を心配し、京に行かせることを思いついたらしい。有津も優一郎に何も教えずに出立させた方がいいと判断した。
「さて、いつ立つか?」
「明日にでも。」
「疲れてはおらぬか?」
「いえ、なんだか、一日でも早い方がいいと思うので・・・。」
「そうか。」
「はい。」
「優一郎。おそらく、無事に王子に帰ってくるとは思うが・・・。そなたはわしの息子も同然。わしの至らなさがそなたに余計な苦労をさせる。それは充分に詫びておく。誠にすまないと思う。この通りだ。」
有津は優一郎に頭を下げた。お美代も下を向いて袂で目を押さえている。優一郎は驚いた。たかだか孤児の自分の旅に、なんで養父の有津が詫びるのか。
「小父さま、頭をお上げ下さい。自分には小父さまに頭を下げられる理由が見つかりません。私の方こそ、小父さまや小母さま、忠助にも情をいただき、いろいろと迷惑もかけ、ここまで育てていただいたこと、言葉に出来ぬ程感謝しております。」
「そなたは、素直に、良い青年に育った。わしはそなたを自慢に思う。だからこそ・・・・。」
有津は言い淀んだ。涙ぐみ、鼻をすすった。
「小父さま、この旅の京への旅が私に必要な旅なのですね。ただの、銀の尼さまのお使いではないのですね。」
「そうだ。子細は言えぬ。だが、必ずや、そなたのためになる旅になるのだ。」
「分かりました。もう、何も聞きません。必ず天狐さまにお会いして、銀の尼さまの荷をお届けしてまいります。ご安心ください。」
心の内はまだまだ心配事だらけだったが、養父・養母の様子にただならぬものを感じ、何も聞かずにおこうと思った。外は雨の音がし始めていた。

小説 (13)

「うわっ!」
驚いて湯から立ち上がり、顔を手で拭い、頭を振った。
「ああ・・・頭を結い直さねば・・・。」
風呂場から出ると夜着に着替えて部屋に行こうとすると、忠助が呼びに来た。
「旦那さまがお呼びです。」
「小父さまが?」
大方、書状の事だろうと思い、有津の部屋に行った。うまそうな良い匂いがしている。優一郎は腹がすいているのを思い出した。声をかけ、戸を開けると、有津は銀月尼からの書状を開き、難しい顔をして座っていた。少し下がって有津の妻、お美代が居た。髪まで濡れている優一郎を見ると、
「どうしましたの?湯遊びでもなさいましたの?」
と笑った。
「違いますよ、小母さま。湯の中で足が滑ったのです。頭までざぶっと浸かってしまいました。」
手拭いで髪のしずくを拭いながら優一郎は照れた。
「あらあら、明日は髪を結い直しましょうね。」
「はい、小母さま。よろしくお願いします。」
と。言った後、思いついて座りなおした。
「小母さま、ご挨拶が遅れました。ただいま帰りました。」
「はい、よう、ご無事で御戻りでした。」
と柔らかく笑った。
「お腹おすきでしょう。残りものですが、召し上がれ。」
とわきに置いてあった膳を優一郎の前に出した。これを準備してくれていて、迎えに出てこなかったのかと、優一郎はありがたく思った。
「わしの前だとて遠慮せずとも良い。食え。」
「ありがとうございます。いただきます。」
箸を取って食べ始めた優一郎のぬれた髪を見ながら有津も笑った。
「相変わらずどんくさいな。」
「ひどい言い方ですね、小父さま。めったにこういうことはありませんよ。考え事をしていて・・。」
「京までの旅の事か?」
「それもありますが・・・・。」
優一郎は高尾山から自分を付けて来た気配が新宿を過ぎた頃に消えた事を話した。
「それから・・・。」
ちょっと、言い淀んでから、
「新宿で茶店の小母さんに、半端者の事を聞きました。」
「なに・・・・・。」
「まあ・・・。」
有津とお美代は同時に顔を曇らせた。

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